種に線を引いているのは一つの法律ではない——育成者権・特許・契約・慣行の四つ
四つは同じ植物に重なりながら、それぞれ別のところに効いている
2026-09-16 · 15 分
特集 · 種は誰のものか——登録・特許・在来種でみる所有の線引き1 / 7

自家採種は長いあいだ農業そのものだった。それなのに、これを「権利」と書いた法律はほとんど無い。いま自家採種が制度の中に残っているのは「例外」としてである。守られているというより、削られずに残っているにすぎない。では手元の種を来年まいてよいのか。答えを分けているのは一つの法律ではない。品種そのものを守る育成者権、遺伝子や形質や技術を押さえる特許、種を受け取るときに結ぶ契約、そして自家採種という慣行。この四つが同じ植物に重なり、それぞれ別のところに効いている。育成者権の国際的な土台であるUPOV条約は1961年12月2日にパリで採択され、加盟は2025年2月27日時点で80を数える。7日続く特集の初日に渡すのは結論ではない。四本の線を見分けるための物差しである。
3分でわかる本記事の内容
- 種に線を引いている仕組みは一つの法律ではなく四つある。育成者権・特許・契約・慣行がそれぞれ別のところに効く。UPOV条約は1961年に採択され、加盟は2025年2月27日時点で80である。
- 育成者権が届くのは登録された品種だけだ。農林水産省の資料によれば登録品種の割合は米17%、ぶどう13%、ばれいしょ10%、野菜9%、りんご5%、みかん3%である。
- 特許が押さえるのは品種ではなく遺伝子や形質や技術だ。米国の植物特許は1930年の法律で無性繁殖の品種に限られる。一方で実用特許はレタス品種79-40 RZのように種子まで届く。
- 契約は法律の外側から効く。食料農業植物遺伝資源条約の標準材料移転契約は2007年から2021年半ばまでに8万4千件を超えて使われた。
- 自家採種は権利として書かれていない。1991年のUPOV条約は農業者の自家増殖を「任意の例外」に置き、国内法に入れるかどうかは各加盟国が決める。
- 四つを混ぜないことに価値がある。UPOV条約と特許と契約を一緒くたにすると「種は自由か」という問いの答えは必ず食い違う。
はじめに
採った種をまいてよいかどうかを決めるのは一つの法律ではない
家庭菜園のトマトから種を採り、翌年またまく。長く当たり前だったこの行為は誰かの権利に触れるのか。答えは育てた品種しだいだ。日本の種苗法で育成者権がかかるのは品種登録を受けた「登録品種」だけ。一度も登録されたことのない品種も、登録期間が切れた品種も、在来種も「一般品種」と呼ばれ、権利の外にある。では登録品種はどれほどあるのか。農林水産省が改正種苗法の説明会で配った資料によれば、米で17%、ぶどうで13%、ばれいしょで10%、野菜で9%、りんごで5%、みかんで3%。手元の種の多くは一般品種のほうなのだ。ただしこの割合は作物ごとに作り方が違う。米は作付面積から、野菜は品種名鑑に載る品種数から出した数字である。
登録品種かどうかを調べれば済む話でもない。品種登録とは別に、遺伝子や形質や栽培方法に特許がかかっていることがある。種を買うときや譲り受けるときに結ぶ契約も法律と関係なく使い道を縛りうる。そして自家採種という長い慣行はそのどれにも「権利」として書かれていない。育成者権、特許、契約、慣行。四つは同じ植物に同時にかかるのに、対象も根拠も期間も違う。混ぜて考えると「種は自由か、そうでないか」という粗い問いしか残らない。どちらと答えても半分しか合わない。
特集は7日かけて四本の線を一本ずつ広げる。明日はF1の種がなぜ二代目でばらけるのかを見る。種を囲い込んでいるのが法律ではなく生物のしくみだという話である。3日目は品種に権利を認める制度がどう組み立てられたのかを歴史から辿る。4日目は誰も所有していない在来の種を誰が残しているのかを現場から見る。5日目は日本の種苗法が家庭菜園にどこまで届くのかを確かめる。6日目は育種の資金がどの作物に集まり、公的育種が細ると何が減るのかを扱う。7日目は自家採種が権利か侵害かを、種を貸し出す図書館をめぐる話で締めくくる。今日読み終えて手元に残してほしいのは結論ではない。「これはどの線の話か」と自分に問うための物差しだ。
四つの線引き
四つの線は守る対象も根拠も期間もばらばらである
一本目の育成者権が守るのは品種そのものだ。既存の品種とはっきり区別できるか。特性がそろっているか。安定しているか。審査でこれを確かめたうえで登録し、登録された品種を業として使う権利を育成者に与える。二本目の特許が押さえるのは品種ではない。遺伝子、形質、育種や栽培の方法といった技術のほうだ。例外は米国の植物特許だけである。1930年の植物特許法にもとづき、接ぎ木や挿し木で殖やされた品種そのものを対象にする。同じ「特許」という言葉なのに押さえているものがまるで違うのだ。
三本目の契約は法律の外側から効く。種を渡すときに条件をつけ、受け取った側をその条件で縛る。国が定めた制度ではないから、国境をまたいでも同じ文面がそのまま効く。四本目の慣行はこの三つとまったく違う場所にある。採った種を翌年まくことは長いあいだ農業と一体だった。それでも法律に権利として書かれることはほとんどなく、いまは「例外」として残っている。守られているものではなく、削られずに残っている部分だと言ったほうが正確だ。四本を並べると種をめぐる議論が二つに割れているのが見える。権利の話と、例外の話である。
参考・出典
- UPOV — Members of the International Union for the Protection of New Varieties of Plants (status on February 27, 2025)
- UPOV — Explanatory Notes on Exceptions to the Breeder's Right under the 1991 Act of the UPOV Convention (UPOV/EXN/EXC/1, October 22, 2009)
- FAO / FAOLEX — International Treaty on Plant Genetic Resources for Food and Agriculture (treaty text, Article 9 Farmers' Rights)
- FAO Plant Treaty — The Standard Material Transfer Agreement (SMTA)
- USPTO — Plant patent (Plant Patent Act of 1930; 35 U.S.C. 161)
- US Patent 9,770,005 B2 — Lettuce variety 79-40 RZ (Rijk Zwaan, granted September 26, 2017)
- 農林水産省 — 改正種苗法説明会資料(第一部)法改正の概要と留意点(令和3年11月)
- 農林水産省 — 種苗法の一部を改正する法律案の概要(育成者権の存続期間の延長ほか)
- e-Gov 法令検索 — 種苗法(平成十年法律第八十三号)第19条・第20条・第21条
- Open Source Seed Initiative — About OSSI and the OSSI Pledge
線引き① 育成者権
育成者権が守るのは品種そのものであり、届くのは登録された品種だけだ
品種に権利を認める仕組みを国際的にそろえているのがUPOV条約だ。1961年12月2日にパリで採択され、1972年11月10日、1978年10月23日、1991年3月19日にジュネーブで改正された。UPOVが公表する加盟表の2025年2月27日時点の版によれば加盟は80である。日本は1982年9月3日に加わり、1998年12月24日に1991年の条約に入った。米国は1981年11月8日に加盟し、1999年2月22日に1991年の条約へ移った。ただし80を国の数と読むと間違える。加盟には国だけでなく機関も含まれ、アフリカ知的財産機関は17か国、欧州連合は27か国の領域を一つの制度でまとめて覆っている。80は制度の数であり、条約が届く国の数はそれより多い。
育成者権が与えるのは登録品種の種苗を業として増やしたり売ったりする行為を独占する力だ。その期間には下限がある。農林水産省が2026年の法改正案の概要で示した説明によれば、UPOV条約が定める期間は20年以上。加盟国の最長は30年、永年性植物では35年だった。日本はこの改正で存続期間を10年延ばし、現行の種苗法は35年、果樹のような永年性植物では40年と定めている。農林水産省は延長の理由として、高温耐性と多収性のように複数の性質を一つの品種に持たせる育種が難しくなっていることや、優良品種で産地を作るのに長い時間がかかることを挙げた。権利の線は固定されていない。いまも引き直されている。
しかもこの権利はすべての品種にかかるわけではない。育成者権が生まれるのは品種登録を受けたときだ。登録されなかった品種、登録期間の切れた品種、在来種は一般品種として制度の外にある。日本では2020年12月に種苗法が改正され、登録品種の増殖は育成者権者の許諾にもとづいて行うという規定が2022年4月1日から動き出した。この改正が家庭菜園にどこまで届くのかは5日目に詳しく見る。大事なのは確かめる順序だ。まず登録品種かどうか。次にその利用が業としてのものかどうか。この二段を飛ばして「自家採種が禁止された」と読むと、対象の広さを大きく見誤る。
線引き② 特許
特許が押さえるのは品種ではなく遺伝子や形質や技術である
特許と育成者権を同じものだと思うと話がかみ合わなくなる。米国特許商標庁の説明によれば、植物特許の根拠は1930年の植物特許法だ。対象は無性繁殖された、新規で明確に区別できる品種。接ぎ木や挿し木で殖やした果樹やバラがここに入る。逆にジャガイモのように塊茎で殖える植物と、栽培されていない場所で見つかった植物は除かれる。権利を主張する範囲であるクレームは一つだけ。植物全体を指す。期間は出願日から20年。そして日本には植物特許という区分そのものが無い。この形は米国に固有のものだ。「植物に特許がかかる」と聞いただけではどの国のどの制度の話かすら分からない。
もう一つの経路が実用特許だ。こちらには無性繁殖という条件が無いので、種でふえる作物にも届く。実例がある。「Lettuce variety 79-40 RZ」という名の米国特許は2015年9月16日に出願され、2017年9月26日に成立した。権利者はオランダの種苗会社ライク・ズワーンである。明細書は種子と植物だけでなく、花粉や胚珠や細胞といった植物の部分にまで及ぶ書き方をしている。種子は2014年8月22日にブダペスト条約にもとづいてNCIMBへ寄託された。育成者権が一つの品種を対象にするのに対し、実用特許は遺伝子や形質を押さえれば複数の品種にまたがる。同じ植物に、届き方の違う二本の線が同時に引かれているのだ。
二本の線の違いがいちばんはっきり出るのが次の品種を育てる場面だ。1991年のUPOV条約は育成者権が及ばない行為を三つ挙げ、その三つ目を「他の品種を育成する目的で行う行為」としている。日本の種苗法も「新品種の育成その他の試験又は研究のためにする品種の利用」を権利の効力の外に置く。登録品種を材料に次の品種を作る道は条文の側からわざわざ開けてあるのだ。ところが特許は別の法律であり、例外の置き方も別に決まる。だから「登録品種だから研究に使えない」も「特許がかかっているから育種に使える」も成り立たない。先に確かめるべきはどちらの線がかかっているかである。
線引き③ 契約
契約は法律の外から効き、種を受け取った人をその条件で縛る
三本目の線は法律ですらない。種を渡すときに交わす契約である。制度として最も規模が大きいのが食料農業植物遺伝資源条約のもとで使われる標準材料移転契約、通称SMTAだ。この条約は2001年に採択され、附属書Iに載る作物の遺伝資源を多数国間システムに載せて研究・育種・訓練に使えるようにした。移転のたびに同じ文面の契約が付く。国連食糧農業機関によれば、この契約の役目は材料の誤用を防ぎ、そこから生まれた商業的な利益を公正かつ衡平に分けることにある。使われた件数は2007年から2021年半ばまでに8万4千件を超えた。法律ではなく契約だから、国境をまたいでも同じ条件がそのまま効く。
契約は縛るためだけの道具ではない。同じ仕組みを逆向きに使う試みがある。オープンソース・シード・イニシアティブ(OSSI)の誓約文はこうだ。「あなたはこのOSSI誓約付きの種子を好きなように使う自由を持つ。その代わりに、あなたはこれらの種子とその派生物の他者による利用を特許その他の手段で制限しないこと、そしてこの誓約をこれらの種子とその派生物の移転に必ず添えることを誓約する」。使う自由を渡す代わりに、閉じない義務を次の人へ引き継がせる。当サイトが収録しているクロッペンバーグの2014年の論文がこの試みの法的な手口と限界を検討している。囲い込みに、囲い込みと同じ道具で対抗しようというわけだ。
契約が育成者権や特許と違うのは切れ方と効く相手である。育成者権と特許には条文が定めた存続期間がある。契約そのものにはそうした一律の期限が無い。特許や育成者権がその品種や技術に触れる全員に効くのに対し、契約が効くのは結んだ相手と、条件を引き継いだ相手だけだ。だから契約なら権利が切れたあとも条件を残せる。逆に契約を結んでいない人にはそもそも届かない。この非対称は種に限った話ではない。ただ種では効き目が大きく出る。種は自分でふえるからだ。ふえた種が誰の手にどう渡ったのかを、契約は追いかけようとする。
線引き④ 慣行
自家採種は権利として書かれず、例外として残っているにすぎない
四本目は慣行だ。採った種を翌年まく行為に、条文はほとんど「権利」という言葉を当てていない。代わりにあるのは例外である。1991年のUPOV条約は加盟国が必ず設けなければならない例外を三つ挙げ、その一つ目が「私的かつ非営利の目的で行われる行為」だ。UPOVが2009年10月22日に出した解説文書によれば、アマチュアの園芸家が自分の庭だけで使うために品種を増やす行為はこの例外に入りうる。ただし条件が付く。その品種の材料を他人に渡さないことだ。裏を返せば、隣の人に分けた時点でこの例の条件からは外れる。同じ文書によれば農業者が自分と同居する家族の食べる分だけを作るための増殖もこの例外に当たりうる。
一方、農業者が自分の圃場で採った種を翌年まく行為は別の枠に入れられた。その条文の見出しは「任意の例外」である。同じ解説文書は「各締約国は……することができる」という書き方を引き、この例外を国内法に入れるかどうかは各加盟国が決めることだと説明している。つまり自家増殖は認められている行為ではなく、認めてもよい行為の側に置かれている。もう一つの条約も同じ構えをとる。2001年に採択された食料農業植物遺伝資源条約には農民の権利を扱う条文があり、そこにはこう書かれている。「本条のいかなる規定も、自家採種した種子または繁殖材料を保存し、利用し、交換し、販売する農民の権利を、国内法に従い、かつ適当な場合に、制限するものと解してはならない」。権利を作る条文ではない。すでにある権利を減らさないと約束する条文である。
では日本の制度はこの線をどこに引いているか。種苗法の条文にはこうある。育成者権者は登録品種を「業として利用する権利を専有する」。この「業として」という言葉が大きな仕事をしている。自分の食卓に出す分だけを作る家庭菜園はこの言葉の外に置かれる。逆に、育てた苗を売る、収穫物を続けて売るといった行為は業としての利用に近づく。どこからが業に当たるのか、条文は数字で示していない。境目は事案ごとの判断になる。5日目にこの線を日本の制度に沿って詳しく辿る。ここで持ち帰ってほしいのは手順だけだ。「登録品種か」と「業としてか」を別々に確かめること。
重なり方と現在地
四本の線は同じ植物に重なるから、どれに当たるかを順に確かめる
なぜ四本をわざわざ分けたのか。実際には重なるからだ。一つの品種に育成者権と実用特許が同時にかかることがある。その種を買うときに契約が付くこともある。そのうえ自分の庭で食べる分だけを作る行為には私的で非営利の行為を対象外にする例外が効く。四つが同時にかかった状態で「この種は自由か」と聞いても答えは出ない。順番に確かめたほうが早く着く。まず登録品種かどうか。次にその利用が業としてのものかどうか。それから遺伝子や形質に別の権利がかかっていないか。最後に、受け取ったときに条件が付いていなかったか。この四段なら法律の専門家でなくても自分で辿れる。
しかも線は動いている。日本では2020年12月の改正で登録品種の増殖が許諾にもとづくものになり、その規定は2022年4月から効いている。続く2026年の改正で育成者権の存続期間は25年から35年へ、永年性植物では30年から40年へ延びた。農林水産省はこの延長の理由として、気候変動で高温耐性のような性質を持つ品種の育成が急がれていることと、日本の新品種育成と品種登録の件数が減る傾向にあることも挙げている。守る側を強くする方向へ線が動いている。それがいまの位置である。この動きが家庭菜園や市民農園にどこまで届くのか。四本のどの線の話かを分けないかぎり見えてこない。
「登録品種は1割ほど」という言い方は向きとしては合っている。だが根拠に使うには粗すぎる。農林水産省の資料をもう一度見てほしい。米の17%は作付面積の割合、野菜の9%は品種名鑑に載る品種数の割合だった。面積で数えるか、品種の数で数えるか。同じ「割合」という言葉でも中身が違う。時点もそろっていない。りんごの5%とみかんの3%は2017年産の作付面積から出した数字である。数字は出どころを離れると独り歩きする。使うなら、何をどう数えたのかを一緒に運ぶ必要がある。
振り返り
今日渡したのは答えではなく、四本の線を見分ける物差しである
出発点は畑の側の問いだった。採った種を翌年まいてよいか。答えを分けていたのは一つの法律ではない。四つの仕組みがそれぞれ別のところに効いていた。一本目の育成者権は品種そのものを対象にする。その国際的な土台であるUPOV条約は1961年12月2日にパリで採択され、1972年・1978年・1991年に改正され、加盟は2025年2月27日時点で80である。二本目の特許は遺伝子や形質や技術を押さえる。米国の植物特許だけは1930年の法律で無性繁殖の品種そのものを対象にする。三本目の契約は法律の外から効き、SMTAは2007年から2021年半ばまでに8万4千件を超えて使われた。四本目の慣行は権利としてではなく例外として残っていた。
第一に、育成者権が届くのは登録品種だけだ。農林水産省の資料が示す登録品種の割合は米17%、ぶどう13%、ばれいしょ10%、野菜9%、りんご5%、みかん3%。手元の品種の多くは一般品種のほうである。第二に、特許と育成者権は別物だ。米国で実用特許になったレタス品種79-40 RZの明細書は種子や植物の部分にまで及ぶ。無性繁殖に限られる1930年の植物特許とは届き方が違う。第三に、自家採種は権利として書かれていない。1991年のUPOV条約で農業者の自家増殖は任意の例外にとどまり、導入するかどうかは各加盟国が決める。食料農業植物遺伝資源条約の農民の権利の条文も、権利を作るのではなく減らさないと約束する書き方だった。
まだ引けていない線がある。一つは日本の「業として」の境目だ。種苗法にこの言葉が入っていることは条文で確かめられる。だがどこからが業に当たるのかを条文は数字で示しておらず、本記事もその線を引けていない。二つ目は登録品種の割合の数え方である。米の17%は作付面積、野菜の9%は品種名鑑に載る品種数から出した数字であり、時点も作物ごとに違う。同じ「割合」という言葉で並べても中身は同じではない。三つ目は想定される反論だ。この記事は制度の側から四本の線を引いた。そうして四つに整理してみせること自体が制度に載らない種のやりとり——庭先での交換や、地域で受け継がれてきた種——を脇に置いてしまう、という批判である。4日目と7日目ではその側から見直す。
今日描いたのは地図だ。明日からの6日間はこの地図の一点ずつを広げていく。2日目はF1の種がなぜ二代目でばらけるのかを見る。囲い込んでいるのは法律ではなく生物のしくみである。3日目は1930年の植物特許法を起点に品種の権利がどう作られたかを辿る。4日目は誰のものでもない在来種を人の手で残している現場に行く。5日目は日本の種苗法が家庭菜園にどこまで届くのかを確かめ、今日触れた2022年4月の規定をそこで詳しく扱う。6日目は育種の資金がどの作物に集まり、公的育種が細ると何が減るのかを見る。7日目は種を貸し出した図書館の一件から、自家採種は権利か侵害かを問う。引き出しの奥に去年採った種の紙袋が一つあるとしよう。その品種は登録されているか。まくのは自分の庭か、収穫を売る畑か。隣の人に分けるつもりはないか。袋を受け取ったとき、何かに同意しなかったか。長く当たり前だった種まきがいまはこの四つの問いの上に乗っている。その一袋に四本のうちどの線が引かれているのか、あなたは言えるだろうか。
この記事の要点
- 種に線を引いている仕組みは四つある。育成者権・特許・契約・慣行はそれぞれ対象も根拠も期間も違い、同じ植物に同時にかかる。
- 育成者権が届くのは登録品種だけである。農林水産省の資料では登録品種の割合が米17%、ぶどう13%、野菜9%、みかん3%とされる。
- UPOV条約は1961年12月2日にパリで採択され、1972年・1978年・1991年に改正された。加盟は2025年2月27日時点で80である。
- 特許は品種ではなく遺伝子や形質を押さえる。米国で実用特許になったレタス品種79-40 RZの明細書は種子や植物の部分にまで及ぶ。
- 契約は法律の外から効く。SMTAは2007年から2021年半ばまでに8万4千件を超えて使われた。OSSIの誓約は逆に他者の利用を制限しない義務を次の人へ引き継がせる。
- 自家採種は権利ではなく例外として残る。1991年のUPOV条約で農業者の自家増殖は任意の例外にとどまり、日本の種苗法が独占を認めるのは「業として」の利用に限られる。
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