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養分の環(わ)を閉じる——窒素・リンと有機循環の科学と社会

食べ物に姿を変えて畑から都市へ運ばれた養分は、どこへ消えるのか。断ち切れた環をふたたび閉じようとする科学と、世界の仕組み

2026-07-22 · 19

一度の収穫は、土から養分を運び出す行為でもあります。作物は生育のあいだに、土の中の窒素・リン・カリウムを吸い上げて実をつけ、その実は食べ物として都市へ運ばれます。かつては、人や家畜の排せつ物や残さが畑へ戻り、養分は畑と食卓のあいだで環(わ)を描いて循環していました。ところが近代の都市は、その戻り道を下水として川や海へ付け替えてしまった。本コラムは、この「有機循環(オーガニック・サイクル)」を、まず窒素とリンという二つの元素の科学からほどきます。空気からパンを作った窒素固定、代わりのきかない有限資源としてのリン、そして養分が都市で行き止まりになる「代謝の裂け目」という考え方。さらに、かつて環を見事に閉じていた江戸の下肥(しもごえ)から、下水からリンを取り戻す現代の試み、そして足元で環を閉じる都市農とコンポストまでを、腰を据えてたどります。捨てないための、そして還すための科学と社会を見わたす保存版です。

概況

見えない一方通行

食べ物は、養分を運ぶ乗り物でもあります。畑の土から吸い上げられた窒素やリンは、米や野菜のかたちに姿を変えて都市へ運ばれ、私たちの体を通り抜けて、大半は下水として流れ出ます。トイレを流す一瞬に、畑から来た養分は排水管へと入り、処理場を経て川や海へ向かう。産地では土がやせ、河口では養分が余る——同じ元素が、片方で足りず、片方で過剰になる。これが、現代の都市と農地のあいだで起きている養分の一方通行です。かつて環(わ)を描いて畑へ戻っていた流れは、いまやほとんど一本の線になりました。

この一方通行は、目に見えないだけに気づかれにくいものです。私たちは食品ロスや生ごみには目を留めますが、下水に溶けて流れる養分の量までは、ふだん意識しません。しかし世界の食料生産を支えているのは、まさにこの窒素とリンという養分であり、それらは無尽蔵ではありません。片方は膨大なエネルギーを費やして空気から作られ、もう片方は限られた鉱山から掘り出される有限の資源です。だからこそ、養分が都市で行き止まりになり、使い捨てられていく構図は、たんなる無駄では済みません。本コラムはまず、その二つの元素——窒素とリン——の科学から始めます。

なぜ問題か

足りない土と、あふれる水

養分が畑へ還らないことは、二つの顔を持つ問題です。一つは資源の面。作物が持ち去った養分を補うために、私たちは工場で窒素肥料を合成し、鉱山からリン鉱石を掘り続けています。窒素肥料の製造には多くのエネルギーが要り、リン鉱石は特定の国に偏って埋蔵される有限の資源です。環を閉じずに掘り足し続ける限り、供給の綱渡りは続きます。もう一つは汚染の面。畑や下水から水系へ抜けた窒素とリンは、そこでは一転して過剰な栄養となり、藻類の異常繁殖や、酸素の乏しい「デッドゾーン」を生みます。米国環境保護庁(EPA)も、過剰な窒素・リンが有害な藻類ブルームや水中の酸素欠乏を引き起こすと説明しています。

つまり同じ養分が、畑では足りず、水ではあふれる。この非対称こそ、環が断ち切られていることの何よりの証拠です。自然の生態系では、枯れ葉も死骸も排せつ物も、分解されて土に戻り、次の生命の養分になります。物質は円を描いて巡り、行き止まりがありません。ところが人間の都市は、この円のどこかを切り開き、養分を一方向に押し流す装置になってしまいました。問題を解く鍵は、切れた円をふたたびつなぎ直すこと——防いで、還して、巡らせることにあります。以下ではまず、その円がどこで切れているのかを、養分の流れに沿って確かめていきます。

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