生ごみは、たい肥になるかメタンになるか
同じバケツ一杯の生ごみに、二つの産業が別々の値段をつけている。片方は電気として売れ、もう片方は土にしかならない。この非対称が、どちらの施設が建つかを決めている
2026-08-24 · 19 分
特集 · コンポストの現在地——制度・経済・限界6 / 7

前回は、日本の生ごみがなぜ分別されないのかを、食品リサイクル法の20年の実績から見ました。制度があっても家庭の生ごみがほとんど動かない——その理由の一つは、動かすだけの経済的な理由が誰にもなかったからです。本記事は、その「経済的な理由」の中身を一枚ずつはがしていきます。堆肥化施設の収入は、実は堆肥の販売ではありません。主たる収入は、ごみを持ち込む側から受け取る受入料金(ゲートフィー)で、その水準は競合する埋立処分の単価によって天井が決まります。EREFの調査をBioCycleがまとめた数字では、米国の埋立処理単価は2023年に全国平均で1トンあたり56.80ドル、北東部では84.44ドルでした。堆肥化事業が成立するかどうかは、まずこの数字との比較で決まる。次に費用の側です。生ごみに混じるプラスチックは、単なる見た目の問題ではなく、法令上の失格事由になります。カリフォルニア州の規則は、堆肥に含まれる4ミリメートル超の物理的夾雑物を乾燥重量の0.5%以下、そのうちフィルム状プラスチックを20%以下と定めており、これを超えた製品は売れません。そして三つ目に、拡大生産者責任(EPR)が「堆肥化可能」という表示そのものに値段をつけ始めました。最後に本記事の核心——同じ生ごみを堆肥にするか、メタン発酵にかけて発電するか。日本のFIT制度では、メタン発酵ガス化発電の買取価格は2023年度以降1kWhあたり35円、調達期間20年で、バイオマス区分の中で最も高い水準です。堆肥には、これに相当する制度的な買い手がいません。同じ資源をめぐって、片方だけに20年間の値札がついている——本記事の立場は、生ごみの行き先を決めているのは技術でも環境性能でもなく、この値札の有無だ、というものです。
3分でわかる本記事の内容
- 堆肥化事業の主たる収入は堆肥の販売ではなく受入料金であり、その上限は埋立処理の単価が決める。BioCycleが伝えるEREFの調査では、米国の埋立処理単価は2023年に全国平均で1トン56.80ドル、北東部84.44ドル、大規模埋立地68.82ドル、中規模49.70ドルだった。
- 原料の汚染は品質問題ではなく販売可否の問題である。カリフォルニア州規則14 CCR 17868.3.1は、堆肥中の4ミリメートル超の物理的夾雑物を乾燥重量の0.5%以下、うちフィルム状プラスチックをその20%以下と定め、5,000立方ヤードごとの検査を義務づけている。
- EPRは「堆肥化可能」という表示に価格を与え始めた。カリフォルニア州SB 54のプログラム計画では2027年の費用が12.6億〜18.7億ドル、2027〜2031年で93億〜172億ドルと見込まれ、多層ラミネート素材の料率は1ポンドあたり13〜39セント。エコモジュレーションは2028年開始で、加算は基本料率の10%から100%まで。
- 同じ生ごみでも、メタンにすれば制度的な買い手がつく。日本のFIT制度でメタン発酵ガス化発電の調達価格は2012〜2022年度が39円/kWh、2023年度以降は35円/kWhで、いずれも調達期間20年。これはバイオマス区分で最も高い水準である。
- 米国では嫌気消化の側に燃料政策の支援が重なる。EPAが把握する食品廃棄物を扱う嫌気消化施設は313か所で、2024年の調査に回答した稼働施設65か所の内訳は独立型20、農場併設15、下水処理場併設30。再生可能燃料基準(RFS)の下でバイオガスは燃料クレジットを生むが、堆肥に対応する制度はない。
- 本記事の立場は、生ごみの行き先を決めているのは技術でも環境性能でもなく、収入源の設計だというもの。堆肥は市場で売る商品、電気とガスは制度が20年買う商品——この非対称が続く限り、都市の生ごみは堆肥ではなくエネルギーへ流れ続ける。
はじめに
同じバケツ一杯の生ごみを、二つの産業が別々の値段で奪い合っている
家庭から出る生ごみを分別して回収する仕組みができたとき、その先には二つの出口があります。一つは堆肥化施設で、酸素を入れながら好気的に分解し、数か月かけて土壌改良材にする。もう一つは嫌気消化施設で、密閉槽で酸素を断ち、発生したメタンを回収して発電なりガス供給なりに回す。理科の教科書はこの二つを「好気と嫌気」という並列の技術として説明します。ところが事業として見ると、両者はまったく対等ではありません。片方は製品を市場で売り、もう片方は製品を制度が買うからです。この違いは、どこにどんな施設が建つかを、静かに、しかし決定的に左右してきました。
本特集はここまで、温暖化会計、化学肥料と埋立地の歴史、義務化が躓いた世界の事例、そして日本の食品リサイクル法20年を辿ってきました。どの回にも共通して現れたのは、「正しいはずのことが、なぜか回らない」という壁です。分別は面倒だから、住民の意識が低いから、と説明されがちなこの壁を、本記事はお金の側から見直します。分別が回らないのは意識の問題である前に、回した先で誰も儲からない、あるいは儲かる相手が別の場所にいる、という配分の問題であることが多いからです。
既刊のコラム『コンポストの科学と社会』では、微生物が何をしているのか、世界の都市がどんな回収システムを築いたのかを扱いました。本記事はそこには戻りません。扱うのは四つだけです。堆肥化施設はどこから収入を得ているのか。原料に混じるプラスチックはいくらの損失になるのか。EPRは「堆肥化可能」という言葉にどんな値段をつけたのか。そして、同じ生ごみを堆肥にするかメタンにするかを、最終的に何が決めているのか。数字を追っていくと、環境政策の議論では表に出にくい配分の構造が見えてきます。
枠組み
堆肥化事業の収入は、堆肥を売ることからは生まれていない
堆肥化施設の損益計算書を想像するとき、多くの人は「良い堆肥をつくって農家に売る」という絵を描きます。実際の事業構造はこれとかなり違います。中核にあるのは受入料金——ごみを持ち込む自治体・収集業者・食品事業者から、1トンあたりいくらで受け取る処理費です。堆肥そのものの販売収入は、多くの施設で受入料金に比べればはるかに小さく、施設によっては輸送費を差し引くとほとんど残りません。堆肥化は「肥料をつくる産業」というより、「有機物を引き受ける処理サービス業」として設計されているのです。この視点に立つと、事業の生死を分ける変数がまるごと入れ替わります。
受入料金は自由に決められません。持ち込む側にとって堆肥化は選択肢の一つにすぎず、いつでも埋立処分場やごみ焼却施設に持って行けるからです。つまり堆肥化施設の値付けには、競合する処分方法の単価という天井があります。埋立が安い地域では、堆肥化施設は安い受入料金でしか材料を集められず、それでは設備投資も人件費も回収できない。逆に埋立が高い地域では、同じ設備がふつうに黒字になる。地形も気候も同じ二つの都市で、片方には堆肥化施設が建ち、片方には建たない——その差を生んでいるのは、たいてい技術ではなく隣の埋立処分場の値段です。
参考・出典
- BioCycle — 2023 Landfill Tip Fees In The U.S. (EREF調査の報告)
- EREF — Analyzing Municipal Solid Waste Landfill Tipping Fees
- Cal. Code Regs. Tit. 14 § 17868.3.1 — Physical Contamination Limits
- US EPA — Emerging Issues in Food Waste Management: Plastic Contamination (August 2021)
- US EPA — Anaerobic Digestion Facilities Processing Food Waste in the U.S. (2022 & 2023)
- US EPA — Renewable Fuel Standard Program
- CalRecycle — SB 54 Plastic Pollution Prevention and Packaging Producer Responsibility Act Regulations
- DLA Piper — California's EPR Program Plan: Costs, compliance, and design considerations for producers
- 経済産業省 — 再生可能エネルギーのFIT制度・FIP制度における2026年度以降の買取価格等と2026年度の賦課金単価を設定します
- 資源エネルギー庁 — 買取価格・期間等(FIT制度・FIP制度)
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