アーバンファームDB
← 探究コラムへ
科学 × 社会会員限定

成果が出なければ、払われない——ソーシャル・インパクト・ボンドという賭け

投資家が先にお金を出し、結果が出たときだけ国や自治体が払う。うまくいった例と、いかなかった例

2026-08-29 · 21

特集 · 「社会にいい」は、どう測るのか——アーバンファームとソーシャルインパクト4 / 7

ソーシャル・インパクト・ボンドの資金の流れ——投資家、サービス提供者、独立評価者、政府の関係を示す図解

前回、「インパクト投資」という言葉が2007年に生まれたばかりだと確認しました。今日は、その言葉が実際にどんな契約として形になったかを見ます。ソーシャル・インパクト・ボンド(英語圏では「ペイ・フォー・サクセス」とも呼ばれます)は、投資家が福祉プログラムの運営資金を先に出し、独立した評価者が「あらかじめ決めた成果」の達成を確認した場合にだけ、政府や自治体が投資家に元本と利息を支払う契約です。成果が出なければ、投資家は損をします。世界初のこの仕組みは2010年、英国ピーターバラの刑務所で始まり、7年後に目標を達成しました。しかし同じ仕組みを使った米国ニューヨークの別の契約は、2015年に打ち切られています。今日は、うまくいった例といかなかった例の両方から、この契約が現場に何をもたらすのかを見ます。

この記事をシェアXFacebookLINE

3分でわかる本記事の内容

  • 世界初のソーシャル・インパクト・ボンドは2010年9月、英国ピーターバラで始まった。Social Finance社が17の投資家から500万ポンドを集め、短期刑を終えた男性受刑者の再犯を減らす事業に投じた。
  • 支払い条件は「再犯率を7.5%以上下げること」。2014年8月公表の中間結果は8.4%減、2017年8月公表の最終結果は7年間で9%減を達成し、投資家は元本に加えて年3%を少し超える利回りを受け取った。
  • この仕組みは世界に広がったが、失敗例もある。米国ニューヨークのライカーズ島刑務所で2012年に始まった同種の契約は、独立評価機関ヴェラ司法研究所が2016年に「再犯を有意に減らせなかった」と結論づけ、2015年8月末で打ち切られた。
  • オックスフォード大学の追跡データベースINDIGOには、2024年11月時点で世界300件の「インパクト・ボンド」が登録されている。米国の財団による代表的な批判は、成果を出しやすい対象者だけを選ぶ「クリーミング」という逆インセンティブを指摘する。
  • 米国ではプログラム関連投資(PRI)という別の仕組みも広がっている。フォード財団は1968年にこれを開拓し、以来累計8億6,500万ドル以上を投じてきた。F.B.ヘロン財団は2016年12月までに、基金の100%を使命に沿った投資へ移行させた。
  • 本記事の立場は、この契約形態を善悪で断じることではない。「効果が出なければ払われない」という設計そのものが、現場の運営に資金繰りと事務の両面で新しい種類の圧力をかけるという事実を、成功例・失敗例の双方から示すことが本記事の目的である。

はじめに

四者が登場する契約——投資家、支援団体、独立評価者、そして政府

ソーシャル・インパクト・ボンドの仕組みは、四つの立場が揃って初めて成立します。まず投資家が、支援プログラムを運営する費用を先に出します。次に、非営利団体などの支援団体が、その資金で実際のサービス(職業訓練、生活支援など)を提供します。プログラムが一定期間終わったところで、契約に関与しない独立した評価機関が、あらかじめ決められた指標(再犯率の低下、就労率の向上など)が達成されたかどうかを確認します。最後に、その指標が達成されていた場合に限り、政府や自治体、あるいは財団が、投資家に元本と利息を支払います。達成されなければ、投資家は出した資金の一部、あるいは全部を失います。この設計の眼目は、税金を先に使うリスクを政府から投資家に移すことです。

この特集の第1回では、ソーシャル・インパクト・ボンドの一例としてピーターバラを紹介しました。今日はそこに立ち返り、成功したこの事例の詳細と、逆に失敗した事例を並べて検証します。成果連動型の契約は「効果があったものにだけ税金を払う」という点で合理的に見えます。しかし、この合理性が現場にどんな圧力をかけるのかは、成功例だけを見ていては見えてきません。今日は光と影の両方を扱います。

現場への影響

支援団体は、成果が出るまで自分の資金繰りで持ちこたえなければならない

この契約が現場の支援団体に何をもたらすかを、資金の流れから考えます。支援団体自身は、投資家から間接的に資金を得てプログラムを運営しますが、投資家への支払いは成果の確認後です。つまり支援団体は、成果が出るまでのあいだ、日々の運営資金を自前で回さなければなりません。米国の会計検査院(GAO)が2010年にまとめた報告書は、手元資金や融資枠を持たない小規模な非営利団体ほど、支払いの遅れによって経営が危うくなると指摘しています。ソーシャル・インパクト・ボンドは、この「支払いの遅れ」を契約の設計そのものに組み込んだ仕組みだとも言えます。

評価にも独自の負担があります。指標の達成を独立機関が確認する以上、支援団体は日々の活動記録を、あとから検証に耐える精度で残さなければなりません。英国の学術誌『Stanford Social Innovation Review』に2018年に掲載された批判的分析は、この種の契約が現場の事務負担を明確に増やし、日々の運営の柔軟性を下げると指摘しています。次の節では、まずうまくいった例——ピーターバラの詳細——から見ていきます。

ここまでは無料でお読みいただけます。

会員限定

この続きは会員限定です

このコラムはアーカイブ入りしたため、本編はアーバンファームクルー以上のメンバー限定です。メンバーシップが、この独立した公共データベースの毎日の収集・調査・運営を支えています。最新のコラムはどなたでも無料でお読みいただけます。

まずは無料ニュースレターで最新コラムを受け取る

毎週水曜、世界の都市農の新着事例・研究・イベントをメールでダイジェスト配信しています。登録は無料です。

いつでも1クリックで解除できます。

読者フィードバック

この記事は参考になりましたか?

ログイン不要。同じ端末からは1記事につき1票で、選び直すこともできます。

この記事をシェアXFacebookLINE

関連コラム

成果が出なければ、払われない——ソーシャル・インパクト・ボンドという賭け