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その畑は、いくらの土地に載っているのか——都市農と不動産の見取り図

「コミュニティ」「収穫」「緑」で語られる場所は、地権者・借地契約・評価額という別の言葉で動いている

2026-08-12 · 19

特集 · アーバンファームと不動産1 / 7

都市の畑を紹介する文章には、決まって同じ言葉が並びます。コミュニティ、収穫、緑、居場所、多世代。だがその畑は必ず、誰かの土地の上に載っています。そしてその土地には、農園の物語とはまったく別の帳簿がついています。登記名義、地目、用途地域、借地契約の終了条項、相続税の評価額、固定資産税の納税義務者。畑が来年も畑であるかどうかを決めているのは、たいていの場合、農業の話ではなく不動産の話です。ニューヨークでは市の農園の使用許可が「60日前の通知で随時取り消せる」と書かれ、アムステルダムでは市が1896年以来ほとんどの土地を売らずに貸し続け、デトロイトでは1区画およそ300ドルで1,500を超える市有地がまとめて売られました。今週は7日かけて、この不動産の側から都市農を見ます。初日の本記事は見取り図です。所有・借地・評価という三つのレイヤーを分けて置き、明日以降に何を確かめるかを先に示します。

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3分でわかる本記事の内容

  • ニューヨーク市の農園使用許可(GreenThumb ライセンス)には、公園局長が裁量で随時終了でき、60日前の書面通知で足り、使用者はいかなる異議も申し立てられない旨が明記されている。10年更新の書面の中身がこれである。
  • アムステルダム市は1896年に「これ以上土地を売らない」と決め、以後は借地(erfpacht)で貸してきた。市はいまも市域の土地のおよそ8割を所有し、約11万戸が市の長期借地契約を結んでいる。地代は土地価格に対する割合で決まる。
  • 契約の型は法律で強度が変わる。イングランドの法定市民農園は1925年市民農園法第8条により、自治体が農園以外の目的へ売却・転用・処分するには所管大臣の同意が要る。同じ国の同じ見た目の農園でも、法定かどうかで足場が二種類に分かれる。
  • 米国の住宅市場では、市場価値のうち土地が占める割合が1984年の約32%から2004年には約50%へ上がったと推計されている(46都市圏、デイヴィス&パルンボ)。値上がりしていたのは建物ではなく、その下の土地だった。
  • 都市に近い農地の値段は農業の採算では説明できない。米国の研究は都市の影響下にある農地に中央値でおよそ1エーカーあたり2,000ドルの上乗せがあるとしている。
  • 農地は不動産という資産クラスの片隅にすぎない。サヴィルズの推計では2022年の世界の不動産総額は379.7兆ドルで、うち住宅が76%・287.6兆ドル、農地は11%・41.3兆ドルだった。畑の値段は、農地以外の用途の値段に引きずられる。

はじめに

農園を語る言葉と、土地を動かす言葉は、ほとんど交わらない

都市農園の紹介文と、その土地の登記簿・売買契約書を並べて読むと、同じ場所の話とは思えません。前者に出てくるのはコミュニティ、収穫、多世代交流、緑の効用、食育といった言葉です。後者に出てくるのは、所有権、地目、用途地域、借地権の存続期間、解約条項、路線価、固定資産税の納税義務者、そして相続。二つの語彙はほとんど重なりません。だが実務では、後者が前者を規定します。どれだけ収穫祭が盛り上がっても、賃貸借契約に「甲は60日前の通知により本契約を解除できる」と書いてあれば、その農園の寿命は最長でも60日先までしか保証されていないからです。

本記事の立場は単純です。都市の畑が続くかどうかを決めているのは、栽培技術でも熱意でもなく、土地の権利と評価をめぐる別の帳簿である。この見方は冷たく聞こえますが、実務者にとっては逆で、手が届く変数がどこにあるかを教えてくれます。土壌はすぐには変えられませんが、契約書の一行、名義の置き方、評価額の根拠は、始める前なら選べるからです。既刊の『都市農地の脆さ』では、愛された農園が更地になる失敗の型を扱いました。本記事はその一段手前、「そもそも土地の側がどういう仕組みで動いているのか」を分解します。

見取り図

所有・借地・評価——畑の下には、性質の違う三つの帳簿が重なっている

土地の話は一枚岩ではありません。少なくとも三つのレイヤーに分けて考えたほうが、議論がかみ合います。第一が所有——誰が権利証を持っているか。市か、住宅局か、鉄道会社か、個人の相続人か、それとも農地を持つために作られた非営利法人か。第二が借地——その所有者と使い手を結ぶ契約の型。使用許可(ライセンス)なのか、賃貸借なのか、期間は何年で、どういう条件で終わるのか。第三が評価——その土地に誰がいくらの値段をつけているか。市場の取引価格、税務署の評価、会計上の簿価は、同じ土地について同時に別の数字を出します。

この三つは独立に動きます。所有が公的でも借地が弱ければ農園は消えますし、逆に所有が私的でも長期の借地権が設定されていれば畑は続きます。評価は両方に効きます。評価額が上がれば所有者の税負担が増え、貸し続ける理由が薄れる。日本ではここに相続という時限装置が加わり、代替わりの年に一気に決着がつきます。7日間の連載は、この三層のどこを見るかで日ごとに分担しています。実証研究(第2回)、歴史(第3回)、開発事業者の動機(第4回)、日本の制度の現在地(第5回)、税の算数(第6回)、そして緑の付加価値への反論(第7回)。本記事はその配置図です。

レイヤー① 所有

同じ市の農園でも、権利証をどの部局が持っているかで寿命が変わる

ニューヨークのコミュニティガーデンは、外から見ればどれも同じ「市民の農園」です。しかし内側では、土地を持っている主体が違います。2009〜10年に行われた市内調査では、公園局(Parks)の管轄が299か所、ランドトラスト所有が118か所、民有が少なくとも36か所、住宅保全開発局(HPD)が13か所、その他の管轄が23か所と数えられました。管轄の違いは名札の違いではありません。住宅を供給することが使命の部局が持つ土地は、住宅の候補地でもあり続けます。2002年の和解では、住宅保全開発局の管轄にあった農園の多くが公園局または非営利のランドトラストへ移されて保全された一方、審査を経て開発の対象に残された農園と、住宅等の開発が予定された農園も区分されました。その内訳と、和解そのものが2010年に期限切れを迎えたことは、第7回で扱います。

この構造への対抗策が、農園を持つためだけの法人を作ることです。フィラデルフィアのネイバーフッド・ガーデンズ・トラストは、市民農園の土地そのものを取得して保全する組織で、単一区画から3.7エーカーの敷地まで53か所を恒久保全し、2027年までに80か所へ増やす目標を掲げています。ここで起きているのは、農園を「使わせてもらう」状態から「持つ」状態へ移す、所有レイヤーの操作です。既刊『都市農地の脆さ』が扱った1999年ニューヨークの一括競売と買い戻しも、突き詰めれば同じ操作でした。所有の付け替えは費用も時間もかかりますが、契約の更新交渉を毎年繰り返すよりは、はるかに確実に効きます。

所有レイヤーの取引は、農という言葉とはほとんど無関係に動くこともあります。デトロイトでは2012年12月11日、市議会が5対4の僅差で、市有の空き地1,500区画超・約140エーカーを一事業者へ52万ドルで売る議案を可決しました。1区画あたりおよそ300ドル。この取引の中身と、それが縮退する都市でしか成立しない理由は第3回に譲りますが、ここで受け取っておくべき教訓は価格の安さではありません。安い土地が大量に動く局面は、農園にとっての好機であると同時に、より資本のある主体が同じ好機を先に取る場だということです。買い手になれない側が交渉できるのは価格ではなく条件——優先交渉権、転売の制限、用途を縛る特約——であり、安く土地を出す自治体の側も、価格を下げることは選べても、その後の転売益まで押さえるには契約に別の条項を書いておくしかありません。

日本の都市農地は事情が違い、市街化区域内の農地の多くは個人の私有地です。だから所有レイヤーの操作は「非営利法人が買う」よりも、「誰が相続するか」「相続人が農業を続けるか」という形で現れます。市民農園として開設されている畑でも、土地の名義は多くの場合、個人か、その相続人です。行政が関与していても、それは所有ではなく貸借と補助の関与であることが多い。所有の問いは、日本では税と相続の問いとしてやってきます——その算数は第6回に譲ります。

レイヤー② 借地

60日で終わる権利と、75年続く権利は、同じ「借りている」ではない

使用の権利には強さの階段があります。いちばん弱いのが使用許可(ライセンス)です。ニューヨーク市公園局の管轄下にある農園が結ぶGreenThumbのライセンスは、10年で更新される書面でありながら、その中に公園局長が裁量で随時終了でき、60日前の書面通知で足り、使用者はそれを理由にいかなる異議も申し立てられない旨が書かれています。公園局管轄外の農園は4年ごとに覚書を結び直します。10年という数字だけを見て安心すると、契約の実質を読み違えます。制度が農園を守っているかどうかは、期間の長さではなく終了条項の書きぶりに現れます。

階段の上のほうには、法律が処分そのものを縛る型があります。イギリスの法定市民農園(statutory allotments)は、1925年市民農園法第8条により、自治体が農園以外の目的へ売却・転用・処分するには所管大臣の同意が要ります。同意の判断では、追い出される利用者に代替の農園が用意されるか、あるいはそれが不要か現実的でないかが問われ、運用上は待機者名簿の状況や周知の努力まで見られます。ただしこの保護が及ぶのは「法定」の市民農園だけで、他目的で保有する土地を暫定的に農園に使っている場合や、私有地の農園には及びません。同じ国の同じ見た目の農園でも、法的な足場は二種類あるということです。

階段のいちばん上に近いのが、都市そのものが地主になり、長期の借地で貸し続ける型です。アムステルダム市は1896年に土地をこれ以上売らないと決め、以後は erfpacht(地上権・借地)で供給してきました。市はいまも市域の土地のおよそ8割を所有しており、約11万戸が市の長期借地契約を結んでいます。地代は土地価格に対する割合として算定されます。当初は期限つきの借地でしたが、1915年に永久借地へ切り替わり、50年または75年で区切って自動的に更新される形になりました。この仕組みは農園のために作られたものではありませんが、示しているのは重要な事実です。都市が土地を手放さずに使わせ続けることは、制度として実際に可能であり、100年以上運用された実績がある。日本にも、生産緑地を貸しても税制上の扱いを保てるようにした都市農地貸借法という道具があります——制度の中身と使い勝手は第5回に譲ります。

レイヤー③ 評価

同じ一筆に、同時に四つの値段がついている

日本の土地には「一物四価」という言い方があります。ひとつの土地に、実際の取引価格、公示価格、相続税路線価、固定資産税評価額という四つの値段が同時に成立している、という意味です。しかもこれらは互いに独立ではなく、税務上の評価は公示価格を基準に、意図的に低く置かれるよう均衡が図られています。だから「この畑の評価額は◯◯円だ」という一文は、それだけでは意味を持ちません。どの帳簿の数字なのかを言わないかぎり、同じ土地の同じ日付についてまったく違う額が並ぶからです(具体的な比率と税額の算数は第6回で扱います)。

評価はまた、時間とともに土地の側へ寄っていきます。米国の住宅市場を分析したデイヴィスとパルンボの研究は、46都市圏の住宅の市場価値のうち土地が占める割合が1984年の約32%から2004年には約50%へ上がったと推計しました。建物の価格ではなく、その下の土地の価格が住宅価格の上昇の主因になったということです。都市農にとってこの含意は直接的で、農園を建物のない土地として持つことは、価値の上昇分をまるごと抱えることを意味します。ちなみにこの指標を配布していたリンカーン研究所の指数は2016年で更新が止まっており、最新の数字で同じ話を続けることはできません。

値段の出どころ

都市の畑が高いのは、農業が儲かるからではない

農地の価格が農業の収益だけで決まるなら、都市近郊の農地は郊外の農地と大差ない値段になるはずです。実際にはそうなりません。米国農務省系の分析は、都市の影響下にある農地には中央値でおよそ1エーカーあたり2,000ドルの上乗せがあると見積もっています。この上乗せ分は農業の収益では説明がつきません。説明がつかないということは、価格を動かしているのが別の用途——住宅や商業への転用の可能性——だということです。都市の農地の値段には、農地としての価値のほかに、「農地でなくなったときの価値」が織り込まれています。

規模の感覚も押さえておく価値があります。サヴィルズの推計では、2022年時点の世界の不動産の総額は379.7兆ドルで、住宅が76%にあたる287.6兆ドル、商業用が13%・50.8兆ドル、農地は11%・41.3兆ドルでした。世界のほとんどの農地を合わせても、住宅の七分の一に届きません。この非対称は、価格の引力がどちらからどちらへ働くかを教えてくれます。都市の畑が住宅の値段に引っ張られることはあっても、その逆はほとんど起きない。都市農の議論が「地価を上げるか下げるか」に向かいがちなのは、この非対称の裏返しでもあります。

所有の統計も、この構図を補強します。2022年の米国農業センサスによれば、全米8億8,000万エーカーの農地のうち39%が借地で、2017年からほぼ横ばいでした。耕す人と持つ人が別であるのは例外ではなく常態だということです。農業の外側の事情——相続、資産運用、転用の期待——で動く所有者が、耕す人の足元を決めている。この構造は都市の内側でより先鋭化します。都市では転用先の用途が多く、待つことの利回りが高いからです。

この見方への反論

不動産の言葉で説明しすぎると、こんどは畑が見えなくなる

ここまでの見取り図には、はっきりした限界があります。第一に、都市の農地の多くはそもそも市場に出ません。日本の生産緑地であれ英国の法定市民農園であれ、制度が処分を縛っているあいだ、価格は成立していても取引は起きない。価格が上がっても売らない所有者は現実に多く、その理由は経済合理性より、家の歴史や近隣との関係や本人の年齢である場合が少なくありません。地価だけで農園の存続を予測しようとすると、この層を丸ごと取り落とします。

第二に、相関と因果の区別です。「農園の近くは地価が高い」という観察は、農園が地価を押し上げた証拠にはなりません。もともと需要のある場所に農園が作られただけかもしれず、逆に地価が低い場所にしか農園を作れなかったという選択も起きます。この論点は本記事の手には余ります。明日の第2回は、まさにこの因果の推定をめぐる研究の攻防——どの研究が何を統制し、どこで批判されたか——を扱います。今日の段階で言えるのは、「緑は価値を上げる」という一文を無批判に引用しないほうがよい、ということだけです。

第三に、データの鮮度です。本記事が引いた数字にも古いものがあります。ニューヨークの農園の管轄別内訳は2009〜10年の調査で、土地の価値割合の推計は2004年時点、その指数は2016年に更新が止まりました。デトロイトの取得区画数や価格も、資料によって1,500区画・52万ドルとするものと1,300区画・50万ドルとするものが併存します。数字が食い違うこと自体は珍しくありませんが、食い違ったまま強い主張を組み立てるのは危うい。だから本記事は、結論の重心を個々の数字ではなく、所有・借地・評価という構造のほうに置いています。数字が入れ替わっても、この三層の関係は変わらないからです。

実務

自分の畑について、今週のうちに確かめておく七つの事実

見取り図を実務に落とすと、確認すべき事実は多くありません。①登記上の所有者は誰か(個人か、法人か、行政のどの部局か)。②地目と用途地域は何か。③自分の使用の根拠は何という書面か——使用貸借か、賃貸借か、使用許可か、口約束か。④その書面の終了条項はどうなっているか(期間、更新の可否、通知期間、原状回復の義務)。⑤固定資産税を実際に払っているのは誰で、いくらか。⑥相続が起きるのはいつごろか、相続人は誰か、その人は制度を知っているか。⑦土地の評価額は、どの帳簿の数字として把握されているか。この七つを紙一枚に書き出せない農園は、いま自分がどのレイヤーの上に立っているのかを把握していないことになります。

そのうえで、交渉できるものとできないものを分けます。地価は交渉できません。用途地域も一団体では動かせません。動かせるのは契約の型と条項、名義の置き方、そして所有者にとっての「貸し続ける理由」です。最後のものが実は最も効きます。所有者にとって畑を貸し続ける理由は、多くの場合、賃料ではなく税と手間と評判で構成されています。管理の手が入り、近隣から苦情が出ず、税の扱いが不利にならないなら、貸し続ける側の合理性は保たれる。逆に言えば、農園側が地代を上げるより先にやるべきは、所有者の側の帳簿に載る負担を減らすことです。

そして、この見取り図の上でいちばん大きく残る問いが、「そもそも農園は土地の価値に何をしているのか」です。押し上げているのか、押し下げているのか、何も起きていないのか。これは感覚で答えられる問いに見えて、実際には四半世紀にわたって研究者が方法論をめぐって争ってきた領域です。明日の第2回「農園の隣に住むと、家は高くなるか」は、その攻防に入ります。今日はまず、自分の畑の下にどの帳簿が重なっているかを紙に書いてみてください。

この記事の要点

  • 都市農地は三つのレイヤーに分けて見る。所有(誰が権利証を持つか)、借地(どの型の契約か、どう終わるか)、評価(誰がいくらと値をつけるか)。三つは独立に動き、どれか一つが弱いだけで農園は消える。
  • 契約は期間の長さではなく終了条項で読む。ニューヨークの農園ライセンスは10年更新でありながら、60日前の通知で随時終了できると書かれている。
  • 都市の農地価格は農業の採算で説明できない。米国では都市の影響下にある農地に中央値で1エーカーあたり約2,000ドルの上乗せがあり、都市近郊では土壌と地価の相関すら見えにくくなる。値段の正体は転用の期待である。
  • 都市が土地を手放さずに使わせ続ける仕組みは実在する。アムステルダムは1896年以来土地を売らず借地で供給し、いまも市域の約8割の土地を所有、約11万戸が市の長期借地の上にある。農園のための制度ではないが、可能性の証明にはなる。
  • 農園側が最初に動かすべきは地代ではなく、所有者の帳簿に載る負担。管理の手間・近隣の苦情・税の扱いを軽くすることが、貸し続ける理由を延命させる。

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