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都市農とDIY——「自分で作る」ことが取り戻す、農の主権

窓辺の水耕から自作の農機具まで。オープンソースと自作の文化が、都市の農をどう変えてきたかを追う

2026-07-17 · 34

都市で野菜を育てようとすると、多くの人が最初にぶつかるのは「道具」の問題です。プランター、水やりの仕組み、支柱、堆肥の容器——買えばそれなりの値段がするし、自分の場所や条件にぴったり合うものはなかなか見つかりません。そこで人々は、廃材でプランターを組み、ペットボトルで自動給水を工夫し、設計図をインターネットで共有し始めました。本レポートは、この「DIY(Do It Yourself/自分で作る)」という営みを、単なる節約術ではなく、農の道具と知識を自分たちの手に取り戻す運動として読み解きます。ニューヨークの窓辺で始まったウィンドウファーム、農具の設計をコモンズにするファームハック、世界初のオープンソース農業ロボットを掲げるファームボット、そしてフランスで農民自身が機械を自作するラトリエ・ペイザン——四つの事例を通して、「作ること」がなぜ都市農の中心的なテーマになりうるのかを考えます。背後にあるのは、適正技術と技術主権という、半世紀以上前から続く思想の系譜です。

概況

「作る」ことから始まる農

都市の農は、しばしば「土のない場所で、いかに育てるか」という問題として語られます。屋上、ベランダ、室内、空き地——そこには畑のように整った土壌も、農家が代々受け継いできた道具もありません。だからこそ、都市で育てようとする人は、まず「育てるための仕組み」を自分で用意することから始めなければなりません。市販の家庭菜園キットを買う人もいますが、限られた予算と特殊な場所の条件のなかで、多くの人は結局、身近な材料で何かを「作る」ことに行き着きます。ペットボトルや発泡スチロールの箱、廃パレット、塩ビ管——都市農の現場には、驚くほど多くの自作の道具が並んでいます。

この「自分で作る」という行為を、単に「お金がないから」と片づけてしまうと、都市農の大切な一面を見落とします。作る過程で、人は自分が育てる仕組みの仕掛けを理解します。水がどう回り、養分がどこから来て、なぜ枯れるのかを、身体で覚えていきます。さらに、うまくいった工夫を写真や図面で他人に伝え、他人の改良を取り込む——そうした共有が積み重なると、一つの道具は個人の持ち物であることをやめ、みんなで育てる「知識のコモンズ」になっていきます。本レポートで見ていくのは、この自作と共有の文化が、都市の農をどこまで押し広げてきたか、という物語です。

論点

DIYとは「安く済ませる」ことなのか

DIYという言葉には、どうしても「安上がりの間に合わせ」という響きがつきまといます。確かに、費用を抑えられることは大きな利点です。しかし、都市農におけるDIYの意味を「節約」だけに縮めてしまうと、なぜ世界中で技術者や農家までがこの運動に加わるのかが説明できません。彼らの多くが口にするのは「主権(sovereignty)」という言葉です。種、土、水と同じように、農の道具もまた、特定の企業や特許に握られてしまえば、育てる人はその条件に従うしかありません。逆に、道具の設計が公開され、誰でも作り・直し・改良できるなら、育てる人は自分の農を自分で制御できます。

この考え方には長い前史があります。1970年代、経済学者E・F・シューマッハーは著書『スモール・イズ・ビューティフル』(1973年)で、巨大で中央集権的な技術ではなく、人びとが自ら扱え、地域に根ざした「適正技術(appropriate technology)」の重要性を説きました。同じころ広がった自作文化やのちのメイカームーブメントは、この思想を道具づくりの実践へと引き継いでいきます。都市農のDIYは、その大きな流れの一部として現れました。以降の各章では、この思想が具体的にどんな道具や組織を生み出したのかを、四つの事例に即してたどっていきます。

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