中国 ── 細い空地から広がる、住民がつくる都市の菜園
上海の社区花園から、深圳の共建花園、成都・重慶の屋上まで。実在する現場を訪ね歩く国別レポート
2026-06-23 · 15 分
中国の都市農業を語ろうとすると、つい国土全体の食料自給や大規模な施設園芸に目が向きがちだ。だが街なかに目を凝らすと、見えてくるのはもっと小さく、もっと人くさい現場である。トンネルの上に放置された細長い空地、瓦礫置き場だった一角、集合住宅の屋上——そうした使いにくい隙間を、住民やNPO、大学の研究者が一畝ずつ耕してきた。本レポートは、当データベースに収録された約8件の中国事例を道しるべに、上海の社区花園(コミュニティガーデン)運動を中心とする現場と、そこに集う人々の物語から、中国のアーバンファーム事情をボトムアップに読み解く。
概況
高密度都市の隙間に、菜園が生まれる
中国で都市農業を考えるとき、まず押さえておきたいのは規模感である。短期間で進んだ都市化により、上海・深圳・成都・重慶といった大都市には数百万から数千万の人々が集まり、土地は極めて希少だ。そのなかで芽吹いてきた都市の農は、広大な郊外農場ではなく、高密度市街地のわずかな隙間を活かす『社区花園(コミュニティガーデン)』や屋上菜園として現れている。建てられない空地、放置された緑地、共用部の屋上——市場価値の低い余白こそが、住民の手で耕される舞台になってきた。
本レポートは、その現場主義の視点を採る。政策文書や統計を俯瞰するより先に、上海・深圳・成都・重慶で実際に動いているプロジェクトを名指しで取り上げ、誰が、どんな土地で、何のために耕しているのかを丁寧に追う。とりわけ注目したいのが、NPO『四叶草堂(Clover Nature School)』と同済大学の研究者が牽引してきた上海のコミュニティガーデン運動だ。一つの細長い空地から始まった営みが、どのように街全体へ、さらに他都市へと広がっていったのか。そこから見えてくるのは、食料生産という単一の目的を超えて、近隣再生・環境教育・生物多様性・高齢者福祉といった多面的な価値が、ひとつの小さな菜園に折り重なっている姿である。
数字と特徴
8件の事例が描く、入口の見取り図
当データベースには、現在中国の事例が約8件収録されている。地理的には上海(5)に集中し、深圳(1)、成都(1)、重慶(1)が続く。上海への偏りは恣意的なものではなく、住民参加型コミュニティガーデンの運動がこの都市で最も厚く根を張ってきたという実態を映している。形態としては社区花園(コミュニティガーデン)が大半を占め、加えて屋上菜園が成都・重慶に見られる。少数の事例ながら、中国の都市農が『大規模生産』ではなく『近隣の小さな緑地づくり』として展開している輪郭を、ひととおり見渡せる構成だ。
数字の上で印象的なのは、面積よりも『広がりの速さ』である。上海では2014年から2022年までに200を超えるコミュニティガーデンと900以上の住民ミニ菜園が生まれ、深圳の『共建花園』は2019年の開始から2023年末までに数百か所に達したとされる。一方で個々の現場はごく小さい。上海・百草園は約200㎡、虹旭生境花園は約450㎡にすぎない。点としては小さくとも、面として急速に増えている——この『小さく、速く、多く』という性格が、現在の中国の都市農を特徴づけている。
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