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日本のアーバンファーム事情——畑が街に残った国

江戸の循環都市から、生産緑地・体験農園・屋上養蜂まで。歴史と文化で読み解く日本の都市農

2026-06-23 · 21

日本の都市には、いまも驚くほど多くの畑が残っています。住宅地のただ中に広がる農地、ビルの屋上で羽音を立てるミツバチ、駅前のマンションに併設された貸し農園——これらは偶然の風景ではなく、何百年もの歴史と、独特の土地観・食文化が積み重なった結果です。本レポートは、日本のアーバンファームを「いま」の断面だけでなく、江戸の循環都市から戦後の農地改革、高度成長期の宅地化、そして近年の生産緑地法改正までを貫く時間軸で読み解きます。なぜ日本の都市には畑が残ったのか。なぜ「所有」より「体験」を売る農園が育ったのか。歴史と文化を手がかりに、その背景をたどります。当データベースには日本の事例が約133件収録されており、本文で取り上げる具体例はその一部です。

概況

都市と農の距離が、世界でいちばん近い国のひとつ

日本のアーバンファームを語るとき、まず押さえておきたいのは「都市と農の距離が極端に近い」という事実です。欧米の多くの都市では、農地は基本的に市域の外側、郊外のベルトに押し出されてきました。ところが日本では、東京・大阪・名古屋といった大都市の行政区域の内側に、いまも生きた農地が点在しています。練馬区のキャベツ畑、世田谷の植木畑、足立の枝豆——大都市の住宅地を歩いていて、ふいに畑に出くわす経験は、日本の都市住民にとってさほど珍しいものではありません。

この近さは、日本の都市農を考える上での出発点であると同時に、それ自体が大きな問いでもあります。世界有数の地価を誇る東京で、なぜ農地が経済合理性に押し流されずに残ったのか。答えは単純な保護政策だけでは説明できません。そこには、農地を切り売りせずに次代へ渡そうとする家の論理、新鮮な地場野菜を尊ぶ食文化、そして都市計画と税制が織りなした複雑な制度の歴史が関わっています。本レポートはその絡まり合いを、時間軸に沿ってほどいていきます。

近年はさらに新しい層が加わりました。屋上のミツバチ、オフィスビルの中の水耕農場、コミュニティでコンポストを回す試み、マンション住民が週末に通う貸し農園。これらは伝統的な農家の畑とは出自が違いますが、「都市の中で土や生き物に触れる」という一点でつながっています。歴史の古層と現代の新しい実践が同じ街に重なっているのが、いまの日本の都市農の姿です。

数字で見る入口

面積は小さく、密度は濃い——日本型都市農の輪郭

数字でみると、日本の都市農の輪郭が浮かびます。農林水産省によれば、市街化区域内にある「都市農業」の農地は全国でおよそ6万ヘクタール台とされ、これは国土に占める割合こそ小さいものの、人口が集中する地域に重なっている点に意味があります。東京都には今も800ヘクタールを超える農地が残り、なかでも練馬区は23区随一の農業のまちとして知られます。一区画は小さくとも、都市住民の生活圏のすぐ隣に農が存在する——この「面積は小さく、密度は濃い」構造が日本型の特徴です。

担い手の顔ぶれも幅広いものです。先祖代々の農地を守る都市農家、区民に区画を貸す市民農園、収穫体験を売りにする企業運営の貸し農園、学校の菜園、福祉施設の園芸、そして屋上やオフィスの新しい都市農。当データベースには日本の事例が約133件収録されており、銀座のビル屋上で営まれる養蜂から、福岡発の家庭用コンポスト、練馬の農業体験農園まで、その振れ幅の大きさを具体的にたどることができます。事例の全体像は当サイトの事例一覧(/cases)から探せます。

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