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イギリス ── 割当農園の記憶から、現代の都市農へ

ヴィクトリア朝の囲い込みから戦時の勝利菜園、そして社会的処方と暫定利用まで。歴史の地層をたどる国別レポート

2026-06-23 · 15

イギリスの都市農を理解するには、まず時間をさかのぼる必要がある。この国では、街なかで土を耕すという営みが、産業革命期の労働者へ土地を分け与える運動として制度化され、二度の大戦を市民の菜園栽培で支え、戦後の住宅政策のなかで縮小し、そしていま社会的処方や暫定利用といった新しい言葉とともに再び芽吹きつつある。割当農園(allotment)という独特の制度を背骨に持つこの国の都市農は、現在の風景の一枚一枚に、はっきりとした歴史の年輪が刻まれている。本レポートは、当データベースに収録された約6件のイギリス事例を手がかりに、なぜこの国の都市農が『いまこうなっているか』を時間軸で読み解いていく。

概況

土を耕すことに、長い記憶がある国

イギリスは、都市のなかで食べ物を育てる文化を、おそらく世界でもっとも長く制度として抱え込んできた国のひとつである。その中心にあるのが「割当農園(allotment)」だ。市民が自治体などから小さな区画を借り、自分の手で野菜や花を育てるこの仕組みは、19世紀の貧困救済にさかのぼり、いまも法律に裏打ちされて全国に残っている。だからこの国の都市農を語るとき、新しい屋上菜園やコミュニティガーデンだけを見ても半分しか見えない。背後には、囲い込みや産業革命、二度の戦争といった社会の大きな揺れに応じて、土地と人の関係が幾度も組み替えられてきた長い歴史が横たわっている。

本レポートは、その歴史の地層を一枚ずつめくる視点を採る。なぜトッドモーデンのような小さな町で『食べられる町』運動が生まれたのか。なぜロンドンの療法ガーデンが医療の処方箋に組み込まれるのか。なぜグラスゴーは停滞した開発予定地をわざわざ市民の庭に変えるのか。これらの問いはいずれも、現在の制度や流行だけでは答えられない。割当農園の記憶、福祉国家の遺産、緊縮財政後の空き地——時間をさかのぼってはじめて、それぞれの現場が『なぜそこにあるのか』が腑に落ちる。歴史を読むことが、この国の都市農を読むことなのである。

数字と特徴

6件の事例が映す、歴史の断面

当データベースには、現在イギリスの事例が約6件収録されている。地理的にはロンドンに4件が集中し、ペナイン山麓の小さな町トッドモーデン、スコットランド最大の都市グラスゴーが各1件を占める。形態は実に幅広い。道端の隙間に作物を植える分散型の市民運動、精神保健のための療法ガーデン、建設用スキップで作る可動式菜園、全国規模の学校園芸キャンペーン、小売店の屋上コミュニティガーデン、そして停滞地を暫定利用する自治体プログラム。少数ながら、イギリスの都市農が抱える歴史の多層性をひととおり映し出す顔ぶれである。

数字よりも印象に残るのは、各事例が立つ『時間の位置』である。シデナム・ガーデンは2002年、RHS学校園芸キャンペーンは2007年、インクレディブル・エディブルとスキップ・ガーデンは2008〜2009年、グラスゴーのStalled Spacesは2011年、IKEAグリニッジは2019年に始まった。これらは偶然散らばっているのではない。社会的処方という医療政策の台頭、世界金融危機後の地域自助、緊縮財政下で生まれた空き地——それぞれの開始年が、その時々の社会の関心と資源配分の地図を映している。事例の年表を並べることが、そのまま現代イギリス史の縮図になる。

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