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SROIは何を測り、何を測り損ねるのか——インパクト評価の方法論

「1ドルの投資で7ドルの社会的価値」という数字は、どこから来るのか

2026-08-27 · 20

特集 · 「社会にいい」は、どう測るのか——アーバンファームとソーシャルインパクト2 / 7

SROIの計算がインプット・アクティビティ・アウトプット・アウトカムをどう比率に変換するかを示す図解

「1ドルの投資に対して7ドルの社会的価値を生んだ」——こう書かれた報告書を見たことがある人は多いはずです。この数字はSROI(Social Return on Investment、社会的投資収益率)と呼ばれる指標で、いまや助成金申請書や年次報告書の定番になっています。しかし、この比率がどう計算されているか、正確に説明できる人は多くありません。分子と分母には何が入り、どこで人の判断が介在し、どこまでが「測定」でどこからが「見積もり」なのか。本記事はSROIの計算の仕組みと限界、それを補うために使われるセオリー・オブ・チェンジ/ロジックモデル、そして「効果があったかどうか」を最も厳密に確かめる手法とされるランダム化比較試験(RCT)が、なぜ福祉やコミュニティの現場にそのまま持ち込めないのかを扱います。最後に、「測れるものだけが測られる」というグッドハートの法則的な歪みが、評価の現場で実際に何を引き起こすのかを見ます。

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3分でわかる本記事の内容

  • SROIは1990年代半ば、米国の助成財団REDF(Roberts Enterprise Development Fund)が、長期失業者を雇う社会的企業を評価する手法として広めた。いまは国際団体Social Value International(旧SROIネットワーク)が標準化を担う。
  • 比率の中身は単純ではない。英国の緊急サービス支援プロジェクトを対象にした実例では「1ポンドの投資で7.67ポンドの社会的価値」という結果が出ているが、この「7.67ポンド」は市場価格ではなく、評価者が選んだ「財務プロキシ(金銭代理指標)」で算出された見積もりである。
  • この主観性は理論上の欠陥ではなく、査読研究でも指摘されている。2021年の学術誌『Nonprofit Management and Leadership』掲載論文は、目的があいまいで対象が広く、効果が長期にわたって遅れて現れる事業ほどSROIは信頼性を失うと結論づけた。
  • SROIの限界を補うのがセオリー・オブ・チェンジとロジックモデルである。1995年に評価学者キャロル・ワイスが提唱したセオリー・オブ・チェンジと、2004年に米国W.K.ケロッグ財団が定式化した「インプット→アクティビティ→アウトプット→アウトカム→インパクト」というロジックモデルは、数値化より前に「なぜ効くはずか」の筋道を書かせる。
  • 評価の「王道」とされるランダム化比較試験(RCT)も、福祉やコミュニティ施策には簡単に持ち込めない。英国財務省のマゼンタブック(政府評価指針)は、介入が複雑で他の施策と切り分けにくい場合や、効果がゆっくり時間をかけて現れる場合にはRCTが不向きだと明記している。
  • 本記事の立場は、SROIやRCTを無用と切り捨てることではない。測定という行為には必ず主観と限界が入り込み、その主観と限界を隠さずに開示する評価だけが信頼に値する、というのが本記事の結論である。

はじめに

比率の分子には市場価格のない価値が入る——だから見積もりが要る

SROIの計算式そのものは難しくありません。分母に投資額(現在価値に割り引いた費用)を置き、分子に生み出された社会的価値(同じく現在価値に割り引いた便益)を置いて割るだけです。難しいのは分子の中身です。孤立していた人が友人を得た、うつが改善した、就労できるようになった——こうした変化には、そもそも市場価格がありません。そこでSROIは「財務プロキシ(金銭代理指標)」という考え方を使います。似た効果を持つ既存のサービスや制度の金額を借りてきて、それを社会的価値の見積もりとして使うのです。たとえば「孤立の緩和」には、類似のカウンセリングサービスの費用が代理指標として使われることがあります。この置き換えの瞬間に、評価者の判断が数字の中に入り込みます。

この特集の前提として、第1回では「善意だけでは資金が集まらない時代になった」と書きました。SROIは、まさにこの要求に応えるために作られた道具です。1990年代半ば、米国の助成財団REDF(Roberts Enterprise Development Fund)が、長期失業者を雇用する社会的企業を評価する手法として広め、その後、英国の実務家たちが体系化しました。現在はSocial Value International(旧称SROIネットワーク)という国際団体が「社会的価値の7原則」を定め、標準化を担っています。今日の記事は、この道具が実際にどう使われ、どこで信頼でき、どこで疑うべきかを一段深く見ていきます。

実例

「1ポンドで7.67ポンド」という数字の、正体

抽象的な説明だけでは実感がつかめないので、実例を一つ見ます。英国の職能団体Skills for Justiceが公表した評価では、脆弱な立場にある人々を支援する緊急サービス関連のプロジェクトについて「1ポンドの投資で7.67ポンドの社会的価値」という結果が示されました。この数字だけを見ると、投資に対して7倍以上のリターンがあったように読めます。しかし実際にこの数字が示しているのは、「評価者が選んだ財務プロキシの合計値を、投資額で割った比率」です。プロキシの選び方が変われば、7.67という数字も変わります。これは不正でも誤りでもありません。SROIという方法論が最初から内包している性質です。問題は、この性質が最終報告書の「7.67」という一つの数字だけを見た読み手には、まったく伝わらないことです。

SROIの公式ガイド(2009年公表、2012年改訂)自体、この性質を隠していません。ガイドは、算出した社会的価値から「死荷重(その活動がなくても起きていた変化)」や「アトリビューション(他の要因の寄与分)」を差し引くことを求めており、「7.67」のような最終比率は、こうした控除を経たあとの数字であるべきだとしています。つまり方法論そのものは、比率が過大評価にならないための手続きを備えています。問題は、この手続きがどこまで丁寧に行われたかを、報告書の読み手が検証する手段をほとんど持たないことです。次の節では、この主観性が査読研究でどう指摘されているかを見ます。

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