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「なんとなくいい」では資金が集まらない時代——ソーシャルインパクト特集、7日間の見取り図

「社会にいい」という言葉は、もう資金を出す理由にならない

2026-08-26 · 19

特集 · 「社会にいい」は、どう測るのか——アーバンファームとソーシャルインパクト1 / 7

エビデンスに基づく資金配分への転換のなかで、都市農がどう評価・測定・資金化されるかを示す図解

「コミュニティのためになります」「福祉に役立ちます」——このひとことで助成金が下りた時代は、終わりつつあります。世界最大級の助成財団の一つ、GIIN(Global Impact Investing Network)が2020年に投資家を対象に行った調査では、回答者の66%が「インパクトウォッシュ(見せかけの社会貢献)」への懸念を、インパクト投資市場が健全に育つうえでの最大の障害として挙げました。「成果を示せないこと」(35%)や「他と比較できないこと」(34%)より、はるかに多い数字です。資金を出す側はもう、善意の言葉を信用していません。求めているのは、何が・どれだけ・誰に効いたかを示す証拠です。この転換のなかで、都市農・コミュニティ農園はどう評価され、どう測られ、どう資金化されているのか。本特集はそれを7日かけて追います。既刊『都市農とコミュニティ ― 土が育てる社会関係資本』と『ケアファーミングと園芸療法』は、畑がもたらす便益そのもの——社会関係資本や心身の癒し——を扱いました。本特集はその先、「その便益をどう証明し、いくらの価値に換算し、誰の金で動かすか」を主題にします。

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3分でわかる本記事の内容

  • 資金を出す側の疑いは、もはや少数意見ではない。GIINの2020年投資家調査では回答者の66%が「インパクトウォッシュ」への懸念を、インパクト投資市場の健全な発展を妨げる最大の要因として挙げた。
  • 「インパクト投資」という言葉自体、2007〜2008年にロックフェラー財団がイタリア・ベラージオで開いた会議で生まれた新しい概念である。専門の国際組織GIINが発足したのは2009年9月、まだ20年に満たない。
  • 「効果が出なければ支払わない」という契約は既に実在する。世界初のソーシャル・インパクト・ボンドは2010年に英国ピーターバラで始まり、7年後の2017年、再犯率9%減という目標達成で投資家に元本と年3%超の利回りが支払われた。
  • 日本にも同種の資金の流れはある。休眠預金等活用制度は2019年度の開始以来、2026年4月末までに累計約401億円を助成し、長野県のこども食堂ネットワークやフードバンク事業にも資金を届けている。ただし審査には社会的インパクト評価の実施が求められる。
  • 測ること自体がタダではない。米国のInnovation Networkが2016年に非営利団体1,125団体を調べたところ、予算の5%以上を評価に充てている団体は12%にすぎず、専任の評価担当者を置く団体はわずか8%だった。いずれも2012年の調査より大きく減っている。
  • 本記事の立場は、都市農の価値そのものを疑うことではない。既刊が示した便益は前提とし、本特集が問うのは「それをどう測り、その測定にどんな限界と負担があり、その先に何が置き去りにされるか」である。

はじめに

「地域のためになる」という一文だけで通った時代が終わった

コミュニティ農園や食支援団体が助成金を申請するとき、かつては活動の趣旨——「孤立を防ぐ」「食品ロスを減らす」「子どもの居場所になる」——を説明すれば、それで十分だった時代がありました。審査する側も、活動の善さを疑わなかったからです。ところがいま、多くの助成元は申請書の段階から「どうやってその効果を測るのか」「測定方法は何か」「昨年度の実績は数値で示せるか」を尋ねてきます。GIINの2020年調査で投資家の66%が「インパクトウォッシュ」への懸念を最大の障害に挙げたという事実は、この変化が一部の意識高い財団だけの話ではなく、資金の出し手全体に広がった疑いであることを示しています。

この特集の前提は、既刊の探究コラム『都市農とコミュニティ』と『ケアファーミングと園芸療法』です。あちらでは、畑という場所がなぜ人と人をつなぎ、なぜ心身を癒すのかという便益そのものを、社会科学と生理学から解きほぐしました。本特集ではその内容を繰り返しません。扱うのは、便益が実在するとわかっていても解決しない部分——「それをどう証明するか」です。SROIという指標は何を測り、何を測り損ねるのか。「インパクト投資」という言葉はいつ、誰が作ったのか。成果が出なければ払われない契約は、現場に何をもたらすのか。日本の休眠預金はコミュニティ農園にどう流れているのか。評価そのものが団体を疲弊させるという指摘に根拠はあるのか。そして、測れない価値を測ろうとすることに、罪はないのか。7日間はこの順で進みます。

なぜいま

エビデンスに基づく資金配分という考え方が、福祉や地域活動にまで及んできた

「エビデンスに基づく」という言葉は、もともと医療の世界の言葉でした。効くかどうかわからない治療を保険で払うわけにはいかない、という発想です。この考え方が公衆衛生、国際開発援助へと広がり、いまは福祉・教育・地域活動の助成にまで及んでいます。背景にあるのは単純な事実です——資金は有限で、申請する団体の数は増え続けている。同じ額を配るなら、より効果の高い活動に配りたいと、資金の出し手が考えるのは自然なことです。問題は、その「効果」をどう測るかという方法論が、まだ確立途上だということです。第2回はその方法論そのもの——SROIやロジックモデル、そしてランダム化比較試験(RCT)がなぜ福祉の現場にそのまま持ち込めないのかを扱います。

もう一つの背景は、資金の出し手そのものが多様化したことです。かつて非営利セクターへの資金源は、行政の補助金と篤志家の寄付がほとんどでした。いまはそこに、リターンを求めながら社会的な効果も求める「インパクト投資家」や、成果に応じて支払う「成果連動型契約」が加わっています。この新しい資金の出し手は、慈善の論理ではなく投資の論理で動きます。投資である以上、リターン(この場合は社会的リターン)を定量的に示すことを求めるのは当然の帰結です。第3回はこの「インパクト投資」という発想自体がいつ生まれたのかを、第4回はその契約が実際にどう運用されているのかを追います。

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