都市のポリネーターと生物多様性 — 現場から始める送粉者のための都市
ミツバチの巣箱だけではない。野生のハナバチを支える、実際にできる手仕事の話
2026-06-24 · 20 分
オスロの「ハチの幹線道路」、銀座の屋上養蜂、イギリスの「ノー・モウ・メイ」。都市は意外にも送粉者の隠れた居場所になりうる。本稿は科学的な総論よりも、まず現場の取り組みから入る。都市菜園やコミュニティガーデンが今日からできることを具体的に並べ、それぞれがなぜ効くのかを、最小限の科学で裏づけていく。鍵となるのは、養蜂と保全はイコールではないという冷静な区別である。
はじめに
ハチを養う都市という発想
送粉者という言葉は、どこか牧歌的な田園を思い起こさせる。だが現実には、舗装と建物に覆われた都市こそが、野生のハナバチや送粉者にとって意外な避難所になりうることが分かってきた。都市には不揃いな緑地が点在し、庭ごとに植える花が違い、農地より農薬が少ない場合が多く、開花の季節も長く続く。こうした不均質さが、多様な送粉者を支える。ある研究では、都市は「ハチと送粉のホットスポット」になりうると報告されている。もっとも、それがすべての昆虫にとっての万能薬ではないという留保つきで。だからこそ問いは、都市は送粉者に優しくなれるか、ではなく、私たちが都市を送粉者のためにどう作り変えるか、になる。本稿はその実践から始めたい。
ここで一つ、最初に置いておきたい区別がある。屋上にミツバチの巣箱を据えることと、送粉者を保全することは、同じではない。世界には約2万種のハナバチがいるとされ、セイヨウミツバチはそのうちの一種にすぎない。野生のハナバチの大半は単独で暮らし、地中や空洞に巣を作り、蜜も作らない。都市に管理された巣箱が過密になると、かえって野生のハナバチと餌を奪い合い、その種の豊かさを押し下げうることが報告されている。だから本稿で紹介する現場の取り組みは、ミツバチの蜜を採ることではなく、目立たない単独性のハナバチや、ハナアブ、チョウ、ガまでを含めた送粉者の群れ全体をどう支えるか、という視点で選んでいる。
実践への入口
一区画の庭にできること
では、都市菜園やコミュニティガーデンの一区画から、具体的に何ができるのか。実は、世界各地で試され、効果の理屈もはっきりしている手仕事がいくつもある。オスロでは市民団体ByBiが2015年から「花の飛び石」を都市に連ね、送粉者が餌と隠れ場所を見つけられる経路を作った。イギリスでは慈善団体プラントライフが、五月に芝を刈らずに野の花を咲かせる「ノー・モウ・メイ」を呼びかける。バグライフは幅約3キロの「昆虫の通り道」B-Linesを全国に描き出す。どれも壮大な計画に見えて、その単位は一つの庭、一枚の芝生、一つの巣箱なのである。
本稿の構成はこうだ。まずオスロの「ハチの幹線道路」に学び、点在する緑をつなぐ回廊という考え方を見る。次に銀座の屋上養蜂を取り上げ、その意義と、野生バチ保全との違いという留保を率直に語る。続いて「刈らない」という最も手軽な行為と、その背後にある牧草地喪失の現実を。そしてB-Linesに見る景観スケールの設計。さらに単独性ハナバチのための「ハチのホテル」と、誰が花を選ぶかという植栽の作法。最後に、これらを学校や地域の手に渡す方法を。読み終えたとき、明日の朝、自分の区画で何を始められるかが、いくつか具体的に見えているはずだ。
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