食品ロスの科学と社会——防ぐ・分ける・還す
食べ物はどこで、なぜ失われるのか。食物連鎖の科学から、世界各地の「捨てない仕組み」まで
2026-07-04 · 18 分
私たちは、育てた食べ物のおよそ3分の1を口に入れる前に失っていると言われます。それは畑での傷み、輸送や加工での目減り、店頭や食卓での廃棄という、長い連鎖のあちこちで少しずつ起きています。本コラムは、食品ロス(フードロス)という現象を「なぜ食べ物は傷むのか」という生物学の原理からほどき、次に世界が積み上げてきた優先順位——防ぐ・分ける・還す——という枠組みで、フランスの廃棄禁止法、韓国の分別回収、日本の食品ロス削減推進法までを横断します。都市農はこの連鎖の最後に、土へ還す環(わ)としても、身近で穫って捨てを減らす仕組みとしても関わります。捨てないための科学と社会を、腰を据えてたどる保存版です。
概況
3分の1を、食べる前に失う
食品ロスの話は、たいてい一つの数字から始まります。国連食糧農業機関(FAO)が2011年に公表した推計によれば、人間の消費のために生産される食料の、およそ3分の1——量にして年間およそ13億トン——が、失われるか捨てられているとされます。この「3分の1」は、産地から食卓までの長い道のりのどこか一点で一度に消えるのではありません。畑での傷みや収穫のとりこぼし、輸送中の目減り、加工での歩留まり、そして店頭と家庭での廃棄という、いくつもの段階に薄く広がって積み上がった合計です。だからこそ食品ロスは、一つの悪者を叩けば済む問題ではなく、連鎖全体を見渡す視点を要求します。
より新しい数字も、事態が改善していないことを告げています。国連環境計画(UNEP)の「食品廃棄指標報告書2024(Food Waste Index Report 2024)」は、2022年の一年間に、小売・外食・家庭の段階で約10.5億トンの食料が捨てられたと推計しました。これは消費者に届いた食料のおよそ19%にあたり、そのうち約6割は家庭から出ています。世界では毎日10億食を超える食事が捨てられている、と同報告書は述べます。一方で、同じ年に約7.8億人が飢えの影響下にあったともされます。有り余るほど作りながら、多くを捨て、なお足りない人がいる——この落差こそ、食品ロスという問題の芯にあります。
なぜ問題か
捨てているのは、食べ物だけではない
食べ物を捨てるとき、私たちはその食べ物と一緒に、それを作るために使われたすべてを捨てています。一片のパンには、小麦を育てた水と土地、耕し運び焼くために燃やしたエネルギー、関わった人々の労働が織り込まれています。食品ロスとは、それらの資源をまとめて無駄にすることでもあります。とりわけ気候への負荷は大きく、食品ロスと廃棄は世界の温室効果ガス排出のおよそ8〜10%を占めるとされます。畑で使った肥料や燃料が排出した分に加え、埋め立てられた生ごみが酸素の乏しい環境で分解される際に、二酸化炭素より強力な温室効果を持つメタンを放つためです。捨てる行為は、静かに気候を温めています。
見落とされがちなのは、失われる場所が国によって違うという点です。FAOの整理では、途上国では生産・収穫・貯蔵・輸送といった前半の段階で失われる「フードロス(食料損失)」が大きく、その背景には冷蔵や道路、保管施設の不足があります。対して先進国では、小売と消費者の段階で捨てられる「フードウェイスト(食品廃棄)」が目立ちます。見た目の規格、賞味期限の余裕、作りすぎ、買いすぎ——豊かさゆえの廃棄です。つまり同じ「食品ロス」でも、原因と処方箋は社会の形によって異なります。本コラムはこの後、まず「なぜ食べ物は傷むのか」という共通の科学を押さえ、次に世界がその上に築いた仕組みを見ていきます。
参考・出典
- UNEP, Food Waste Index Report 2024
- UNEP, 'World squanders over 1 billion meals a day' (press release, 2024)
- FAO, Global Food Losses and Food Waste (2011)
- UNFCCC, 'Food loss and waste account for 8-10% of annual global greenhouse gas emissions'
- Légifrance, LOI n° 2016-138 du 11 février 2016 relative à la lutte contre le gaspillage alimentaire
- World Economic Forum, 'South Korea once recycled 2% of its food waste. Now it recycles 95%' (2019)
- 環境省, 我が国の食品ロスの発生量の推計値(令和4年度)の公表について
- 農林水産省, 令和4年度の事業系食品ロス量が削減目標を達成!
ここまでは無料でお読みいただけます。
この続きは会員限定です
このコラムはアーカイブ入りしたため、本編はアーバンファームクルー以上のメンバー限定です。メンバーシップが、この独立した公共データベースの毎日の収集・調査・運営を支えています。最新のコラムはどなたでも無料でお読みいただけます。
まずは無料ニュースレターで最新コラムを受け取る
毎週水曜、世界の都市農の新着事例・研究・イベントをメールでダイジェスト配信しています。登録は無料です。
読者フィードバック
この記事は参考になりましたか?
ログイン不要。同じ端末からは1記事につき1票で、選び直すこともできます。
関連コラム
台湾のアーバンファーム事情 ── 制度が耕す、密集都市の余白
法・自治体プログラム・補助制度のレンズで読む、都市農を「仕組み」として設計した島の現在地
14 分堆肥は本当に環境にいいのか——コンポストという理想への反論、そして実践
分解しない「堆肥化可能」プラスチック、堆肥から出るPFASと重金属、そして輸送まで数えたときの気候効果
19 分生ごみは、たい肥になるかメタンになるか
同じバケツ一杯の生ごみに、二つの産業が別々の値段をつけている。片方は電気として売れ、もう片方は土にしかならない。この非対称が、どちらの施設が建つかを決めている
19 分日本の生ごみは、なぜ分別されないのか——食品リサイクル法20年の実績
事業者の再生利用等実施率は91%。それでも家庭の生ごみの8割は焼却炉へ行く。優等生の数字と、対象外にされた台所のあいだにあるもの
19 分