アーバンファームDB
← 探究コラムへ
科学 × 社会会員限定

堆肥にしないと、どれだけのメタンが出るのか——コンポストの温暖化会計

1トンあたり0.86トン、捕捉されない61%、そして「堆肥化可能」の認証が保証していないもの

2026-08-20 · 19

特集 · コンポストの現在地——制度・経済・限界2 / 7

生ごみが埋立地・堆肥化・バイオガス化の三つの出口に分かれ、それぞれメタンと二酸化炭素をどれだけ出すかを比較した図解

昨日の第1回「生ごみが『インフラ』になる日」では、気候目標・食品ロス削減・埋立処分場の逼迫という三つの潮流が、たい肥を政策課題へ押し上げてきた経緯を見取り図として描きました。今日はそのうち一つ目、気候の勘定を開いてみます。「生ごみを埋め立てるとメタンが出る」という一文は、いまや条例の前文にも企業の資料にも並んでいます。では、どれだけ出るのか。誰がどう数えたのか。堆肥化すれば本当にゼロになるのか。米国環境保護庁が2023年に初めて公表した推計では、埋め立てられた生ごみ1トンにつき約0.86トンの二酸化炭素換算が大気に出ています。ただしこの数字は、実測ではなく減衰モデルの出力です。一方で、飛行機から見た埋立地は、モデルより大きな煙を上げていました。そして堆肥化の側もゼロではありません。本記事は、この会計の骨組みと、そこに残る不確かさを、数字の出どころまで戻って読み直します。既刊『コンポストの科学と社会』が扱った分解の原理は前提とし、ここでは「その原理を、気候の帳簿にどう書き込むか」だけを扱います。

この記事をシェアXFacebookLINE

3分でわかる本記事の内容

  • 米国環境保護庁が2023年10月に公表した推計では、埋め立てられた生ごみ1トンにつき約0.86トンのCO2換算が大気に放出される。2020年の米国だけで約5,500万トンCO2換算にのぼり、この分野で初めて査読を経た国家規模の基準点となった。
  • 生ごみは埋立ごみの重量では24%だが、埋立地から出るメタンの58%を占める。分解が速く、ガス回収設備が覆いをかける前に大半が抜けてしまうためで、発生したメタンの61%が捕捉されずに大気へ出ると同庁は見積もっている。
  • 堆肥化はゼロ排出ではない。Vergara と Silver の2019年の連続測定(Environmental Research Letters 14巻12号)では、湿重量1kgあたり1.7±0.32gのメタンが出て、その75%は最初の3週間に集中した。それでも生涯排出はマイナス690 gCO2e/kgと算定されている。
  • バイオガス化も漏れる。Scheutz と Fredenslund が23のデンマークのバイオガス施設を実測した2019年の研究(Waste Management 97巻38–46頁)では、生産量に対するメタン漏洩は0.4〜14.9%、平均4.6%だった。メタンを売る施設が、そのメタンを漏らしている。
  • 「堆肥化可能」認証は施設についての約束であって、庭についての約束ではない。産業施設10か所での実地試験では表面積ベース98%が分解した一方、英国の家庭コンポスト1,648件の市民科学調査では「家庭堆肥化可能」認証品の60%が完全には分解しなかった。
  • 本記事の立場は、堆肥化の気候効果は実在するが、その大きさは「埋立地でどれだけ漏れていたか」という比較対象の側の不確かさに支配されている、というもの。数字を掲げるなら、モデルか実測か、どの捕捉率を仮定したかまで添えて掲げるべきである。

出発点

1トンあたり0.86トン——この数字は、2023年まで存在しなかった

「生ごみを埋め立てるとメタンが出る」という命題自体は、半世紀近く前から知られています。しかし「米国全体で、埋立処分された生ごみが年間どれだけのメタンを出しているのか」という問いに、政府が数字で答えたのは2023年10月が最初でした。米国環境保護庁の報告書『Quantifying Methane Emissions from Landfilled Food Waste』は、1990年から2020年までを対象に、埋め立てられた生ごみ1トンにつき約0.86トンの二酸化炭素換算が大気に放出されると推計しています。2020年単年では約5,500万トンCO2換算。都市ごみ埋立地全体の排出は減少傾向にあるのに、生ごみ由来の分だけは増えている、というのがこの報告書の中心的な指摘でした。

この一文が政策文書に引用されるとき、たいてい落ちるのは「どうやって数えたか」です。埋立地から出るメタンは、煙突のように一点から出てくるわけではなく、面として、しかも数十年にわたって、ゆっくり出続けます。だから直接測ることが難しく、実務ではモデルで推計します。0.86という数字も、生ごみが埋立地でどう腐り、いつメタンになり、そのうち何割がガス回収装置に捕まるかを一定の仮定で計算した結果です。仮定を一つ動かせば、数字も動きます。この記事が最初に確かめたいのは、その仮定がどこにあるのか、ということです。

問いの立て方

同じ炭素が、出口によって別の温室効果ガスになる

既刊『コンポストの科学と社会』で見た通り、有機物の分解は酸素の有無で二つに分かれます。酸素があれば主に二酸化炭素が、なければメタンが出る。原理としてはそれだけの話です。しかし気候の帳簿に載せると、この分岐は途端に重くなります。IPCC第6次評価報告書の値では、非化石由来のメタンの100年地球温暖化係数は27、化石由来は29.8、20年で見るとおよそ80です。同じ炭素原子が、酸素の有無というただ一点の違いによって、20年の時間軸で80倍の重みを持つ気体になる。堆肥化が気候対策として語られる根拠は、突き詰めればこの分岐点の管理に尽きます。

ただし、分岐の管理は「堆肥化すればゼロ」を意味しません。好気堆肥の山の内部にも嫌気の隙間はでき、そこからメタンが出ます。バイオガス施設は意図的にメタンを作りますが、その一部を漏らします。埋立地はガスを回収しますが、捕捉率は100%ではありません。つまり三つの出口はどれも「メタンが出るかどうか」ではなく「どれだけ出るか」で比べられるべきものです。以下では、埋立地の会計の骨組み、実測とモデルのずれ、堆肥化とバイオガス化それぞれの実測値、そして最後に「堆肥化可能」と表示されたプラスチックが実際にどこまで分解するかを、順に見ていきます。

ここまでは無料でお読みいただけます。

会員限定

この続きは会員限定です

このコラムはアーカイブ入りしたため、本編はアーバンファームクルー以上のメンバー限定です。メンバーシップが、この独立した公共データベースの毎日の収集・調査・運営を支えています。最新のコラムはどなたでも無料でお読みいただけます。

まずは無料ニュースレターで最新コラムを受け取る

毎週水曜、世界の都市農の新着事例・研究・イベントをメールでダイジェスト配信しています。登録は無料です。

いつでも1クリックで解除できます。

読者フィードバック

この記事は参考になりましたか?

ログイン不要。同じ端末からは1記事につき1票で、選び直すこともできます。

この記事をシェアXFacebookLINE

関連コラム

堆肥にしないと、どれだけのメタンが出るのか——コンポストの温暖化会計