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屋上農は何の役に立つのか——633ヘクタールと1,284ヘクタールのあいだで

24年かけて屋根に積み上がった緑は約633ヘクタール。地上の市民農園はその倍の面積を、18万8千の区画として持っている。それでも屋根に登る理由があるとすれば、それは収穫ではない

2026-08-01 · 26

特集 · 屋上という農地7 / 7

本特集は、屋上を農地として見るための道具を順に配ってきました。面積を数え、重さと水の物理を設計の水準まで降ろし、系譜を辿り、費用の配分を追いました。最終回となる本記事は、そこまで積み上げたものに、いちばん答えにくい問いをぶつけます——それで、屋上農は何の役に立つのか。都市の食料に本当に寄与するのか。義務づけは、地上の緑を減らしたことのアリバイになっていないか。答えは気持ちのよいものではありません。国土交通省が2025年12月12日に公表した最新の調査によれば、2000年から2024年までに積み上がった屋上緑化は約633ヘクタール、2024年の新規施工は約14.5ヘクタールでした。一方、農林水産省が示す全国の市民農園は令和6年度で4,273か所・188,713区画・1,284ヘクタール。地上の菜園は、24年ぶんの屋上緑化のおよそ倍の面積を、しかも全面を食べるための土として持っています。バルセロナの大学屋上で8年間続いた実測は、同じ温室でトマト1キログラムあたりの温室効果ガスが0.54キログラムから12.05キログラムまで20倍以上ぶれることを示しました。それでも本記事は、屋上を諦めろとは書きません。ローマの高校の屋根では、植えた6種に対して62種が勝手に入り込んでいました——収穫では測れないものが、そこにはあります。限界を数字で確定させたうえで、市民が明日から取れる第一歩を、順序をつけて示します。

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3分でわかる本記事の内容

  • 屋上農の食料への寄与は、量で語ると弱い。バルセロナ自治大学の125平方メートルの屋上温室で8年間測ったトマトの収量は、栽培周期によって1平方メートルあたり0.9〜20.3キログラムと20倍以上ぶれ、8年で31.2%低下した。
  • 「近いから環境に良い」は成り立たない。同じ屋上温室でも、トマト1キログラムあたりの温室効果ガスは0.54〜12.05キログラム、電力は人工照明を使った周期で19.7kWh、通常の温室周期で0.49kWhと40倍の開きがある。決めるのは立地ではなく運転である。
  • 東京都の制度では屋上の緑は原則として地上の緑の代わりにならない。施行規則第6条は地上部を(敷地面積−建築面積)×0.2〜0.25、建築物上を屋上面積×0.2〜0.35と別建てで課す。相互の振替は「困難な特段の理由」がある場合に同一面積までに限られる。
  • 屋上のいちばん確かな産物は、収穫ではなく勝手に来るものかもしれない。ローマの高校で2016年に設置され手入れをしていない200平方メートルの屋根では、植栽された6種に対し18科62種が自然に侵入し、その56%にあたる35種が一年生植物だった。
  • 土に触れる場所を増やすなら、地上のほうが桁違いに効率がよい。全国の市民農園は令和6年度で4,273か所・188,713区画・1,284ヘクタール、1区画あたり平均およそ68平方メートル。開設主体は地方公共団体1,977、農業者1,433、企業・NPO等449、農業協同組合414である。
  • 本記事の立場は、屋上農を食料生産として評価するのをやめるべきだ、というものである。屋上が確かに供給するのは、生きものの居場所と、都市の雨と熱の処理と、人が土に触れる少数の機会である。だから市民の第一歩は屋上ではなく地上にあり、屋上は二歩目に来る。

はじめに

6日かけて避けてきた問いに、最後に戻る

この特集は、屋上を農地として見るための道具を順に配ってきました。第1回で面積を数え、第2回で重さと水の物理を設計の水準まで降ろし、第3回で系譜を辿り、第6回で費用の配分を追いました。道具は揃いました。しかし道具が揃うほど、先送りにしてきた問いが目立つようになります——それで、屋上農は何の役に立つのか。この問いは、擁護する側からも批判する側からも、しばしば別の問いにすり替えられます。擁護する側は「都市に緑が増えるのは良いことだ」と言い、批判する側は「そんなもので都市は養えない」と言う。どちらも間違ってはいませんが、噛み合ってもいません。噛み合わないのは、屋上に何を期待するのかが、議論の前に決められていないからです。

本記事は期待を三つに分けて、それぞれ数字で確かめます。第一は食料。屋上農は都市の食卓にどれだけ寄与するのか。第二は環境。屋上で作ることは、運んでくることより本当に負荷が小さいのか。第三は緑地政策。屋上の緑化義務は、地上の緑を減らしたことのアリバイになっていないか。三つとも、答えは「期待されているほどではない」に近づきます。そのうえで第四の効用——誰も期待していなかったもの——を、ローマの高校の屋根から取り出します。最後に、限界をすべて認めたうえで、市民が明日から取れる第一歩を順序立てて示します。限界を数えることは、諦めることとは違います。何に使えないかが決まって初めて、何に使えるかが決まるからです。

先に断っておくべきことがあります。本特集は7日間の予定のうち、第4回「世界の事例」と第5回「日本の現在地」を公開できませんでした。したがって本記事は、7本ぶんの議論を総括するのではなく、実際に公開された5本——面積、物理、系譜、費用、そして本記事——の上に立っています。欠けた2回ぶんの視野、とりわけ日本の屋上がいまどうなっているかについては、本記事のなかで確認できた数字の限りで補いますが、それは代替にはなりません。特集の骨格を後から書き換えないという方針をとった以上、欠けたことは欠けたと書いておきます。

二つの面積

633ヘクタールと1,284ヘクタール——並べると議論の前提が変わる

国土交通省は2000年から毎年、全国屋上・壁面緑化施工実績調査を行っています。2025年12月12日に公表された最新の結果によれば、2024年に新たに施工された屋上緑化は約14.5ヘクタール、壁面緑化は約4.6ヘクタール。2000年から2024年までの累計は、屋上緑化が約633ヘクタール、壁面緑化が約131ヘクタールです。第1回では当時の最新値である2023年までの累計約615ヘクタールを引きましたが、1年ぶんを足しても数字の性格は変わりません。24年かけて積み上がったのが633ヘクタール、直近1年の上積みが14.5ヘクタール——第1回で見たとおり、増加の速度はすでに頭打ちです。

この633ヘクタールを、地上の数字と並べてみます。農林水産省がまとめる市民農園の状況によれば、令和6年度時点で全国の市民農園は4,273か所、区画数は188,713、面積は1,284ヘクタール。開設主体の内訳は地方公共団体が1,977、農業者が1,433、企業・NPO等が449、農業協同組合が414です。1,284ヘクタールを188,713区画で割ると、1区画はおよそ68平方メートル。それだけの土が、18万を超える区画の借り手の手元にあることになります。市民農園は平成4年度には691か所・56,727区画・202ヘクタールでしたから、この30年あまりで面積はおよそ6.4倍になりました。

並べて分かるのは、地上の菜園が24年ぶんの屋上緑化のおよそ倍の面積を持っていること、そして決定的な違いとして、その1,284ヘクタールは全面が食べるための土だということです。633ヘクタールのほうは、大半がセダムなどの薄層型の緑化であり、食べられる作物が植わっている面積は、この統計からは分かりません。もちろんこの比較には限界があります。市民農園は郊外を含む全国の平地の数字であり、屋上緑化は都心の高密度な場所にも成立するという、面積では測れない性質を持っています。それでも、都市に「土に触れる場所」を増やすという目的だけを取り出したとき、どちらが効率的かは、この二つの数字がほぼ答えています。

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