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屋上農は何の役に立つのか——633ヘクタールと1,284ヘクタールのあいだで

24年かけて屋根に積み上がった緑は約633ヘクタール。地上の市民農園はその倍の面積を、18万8千の区画として持っている。それでも屋根に登る理由があるとすれば、それは収穫ではない

2026-08-01 · 26

特集 · 屋上という農地7 / 7

本特集は、屋上を農地として見るための道具を順に配ってきました。面積を数え、重さと水の物理を設計の水準まで降ろし、系譜を辿り、費用の配分を追いました。最終回となる本記事は、そこまで積み上げたものに、いちばん答えにくい問いをぶつけます——それで、屋上農は何の役に立つのか。都市の食料に本当に寄与するのか。義務づけは、地上の緑を減らしたことのアリバイになっていないか。答えは気持ちのよいものではありません。国土交通省が2025年12月12日に公表した最新の調査によれば、2000年から2024年までに積み上がった屋上緑化は約633ヘクタール、2024年の新規施工は約14.5ヘクタールでした。一方、農林水産省が示す全国の市民農園は令和6年度で4,273か所・188,713区画・1,284ヘクタール。地上の菜園は、24年ぶんの屋上緑化のおよそ倍の面積を、しかも全面を食べるための土として持っています。バルセロナの大学屋上で8年間続いた実測は、同じ温室でトマト1キログラムあたりの温室効果ガスが0.54キログラムから12.05キログラムまで20倍以上ぶれることを示しました。それでも本記事は、屋上を諦めろとは書きません。ローマの高校の屋根では、植えた6種に対して62種が勝手に入り込んでいました——収穫では測れないものが、そこにはあります。限界を数字で確定させたうえで、市民が明日から取れる第一歩を、順序をつけて示します。

3分でわかる本記事の内容

  • 屋上農の食料への寄与は、量で語ると弱い。バルセロナ自治大学の125平方メートルの屋上温室で8年間測ったトマトの収量は、栽培周期によって1平方メートルあたり0.9〜20.3キログラムと20倍以上ぶれ、8年で31.2%低下した。
  • 「近いから環境に良い」は成り立たない。同じ屋上温室でも、トマト1キログラムあたりの温室効果ガスは0.54〜12.05キログラム、電力は人工照明を使った周期で19.7kWh、通常の温室周期で0.49kWhと40倍の開きがある。決めるのは立地ではなく運転である。
  • 東京都の制度では屋上の緑は原則として地上の緑の代わりにならない。施行規則第6条は地上部を(敷地面積−建築面積)×0.2〜0.25、建築物上を屋上面積×0.2〜0.35と別建てで課す。相互の振替は「困難な特段の理由」がある場合に同一面積までに限られる。
  • 屋上のいちばん確かな産物は、収穫ではなく勝手に来るものかもしれない。ローマの高校で2016年に設置され手入れをしていない200平方メートルの屋根では、植栽された6種に対し18科62種が自然に侵入し、その56%にあたる35種が一年生植物だった。
  • 土に触れる場所を増やすなら、地上のほうが桁違いに効率がよい。全国の市民農園は令和6年度で4,273か所・188,713区画・1,284ヘクタール、1区画あたり平均およそ68平方メートル。開設主体は地方公共団体1,977、農業者1,433、企業・NPO等449、農業協同組合414である。
  • 本記事の立場は、屋上農を食料生産として評価するのをやめるべきだ、というものである。屋上が確かに供給するのは、生きものの居場所と、都市の雨と熱の処理と、人が土に触れる少数の機会である。だから市民の第一歩は屋上ではなく地上にあり、屋上は二歩目に来る。

はじめに

6日かけて避けてきた問いに、最後に戻る

この特集は、屋上を農地として見るための道具を順に配ってきました。第1回で面積を数え、第2回で重さと水の物理を設計の水準まで降ろし、第3回で系譜を辿り、第6回で費用の配分を追いました。道具は揃いました。しかし道具が揃うほど、先送りにしてきた問いが目立つようになります——それで、屋上農は何の役に立つのか。この問いは、擁護する側からも批判する側からも、しばしば別の問いにすり替えられます。擁護する側は「都市に緑が増えるのは良いことだ」と言い、批判する側は「そんなもので都市は養えない」と言う。どちらも間違ってはいませんが、噛み合ってもいません。噛み合わないのは、屋上に何を期待するのかが、議論の前に決められていないからです。

本記事は期待を三つに分けて、それぞれ数字で確かめます。第一は食料。屋上農は都市の食卓にどれだけ寄与するのか。第二は環境。屋上で作ることは、運んでくることより本当に負荷が小さいのか。第三は緑地政策。屋上の緑化義務は、地上の緑を減らしたことのアリバイになっていないか。三つとも、答えは「期待されているほどではない」に近づきます。そのうえで第四の効用——誰も期待していなかったもの——を、ローマの高校の屋根から取り出します。最後に、限界をすべて認めたうえで、市民が明日から取れる第一歩を順序立てて示します。限界を数えることは、諦めることとは違います。何に使えないかが決まって初めて、何に使えるかが決まるからです。

先に断っておくべきことがあります。本特集は7日間の予定のうち、第4回「世界の事例」と第5回「日本の現在地」を公開できませんでした。したがって本記事は、7本ぶんの議論を総括するのではなく、実際に公開された5本——面積、物理、系譜、費用、そして本記事——の上に立っています。欠けた2回ぶんの視野、とりわけ日本の屋上がいまどうなっているかについては、本記事のなかで確認できた数字の限りで補いますが、それは代替にはなりません。特集の骨格を後から書き換えないという方針をとった以上、欠けたことは欠けたと書いておきます。

二つの面積

633ヘクタールと1,284ヘクタール——並べると議論の前提が変わる

国土交通省は2000年から毎年、全国屋上・壁面緑化施工実績調査を行っています。2025年12月12日に公表された最新の結果によれば、2024年に新たに施工された屋上緑化は約14.5ヘクタール、壁面緑化は約4.6ヘクタール。2000年から2024年までの累計は、屋上緑化が約633ヘクタール、壁面緑化が約131ヘクタールです。第1回では当時の最新値である2023年までの累計約615ヘクタールを引きましたが、1年ぶんを足しても数字の性格は変わりません。24年かけて積み上がったのが633ヘクタール、直近1年の上積みが14.5ヘクタール——第1回で見たとおり、増加の速度はすでに頭打ちです。

この633ヘクタールを、地上の数字と並べてみます。農林水産省がまとめる市民農園の状況によれば、令和6年度時点で全国の市民農園は4,273か所、区画数は188,713、面積は1,284ヘクタール。開設主体の内訳は地方公共団体が1,977、農業者が1,433、企業・NPO等が449、農業協同組合が414です。1,284ヘクタールを188,713区画で割ると、1区画はおよそ68平方メートル。それだけの土が、18万を超える区画の借り手の手元にあることになります。市民農園は平成4年度には691か所・56,727区画・202ヘクタールでしたから、この30年あまりで面積はおよそ6.4倍になりました。

並べて分かるのは、地上の菜園が24年ぶんの屋上緑化のおよそ倍の面積を持っていること、そして決定的な違いとして、その1,284ヘクタールは全面が食べるための土だということです。633ヘクタールのほうは、大半がセダムなどの薄層型の緑化であり、食べられる作物が植わっている面積は、この統計からは分かりません。もちろんこの比較には限界があります。市民農園は郊外を含む全国の平地の数字であり、屋上緑化は都心の高密度な場所にも成立するという、面積では測れない性質を持っています。それでも、都市に「土に触れる場所」を増やすという目的だけを取り出したとき、どちらが効率的かは、この二つの数字がほぼ答えています。

期待 ① 食料

屋上は都市を養うか——8年の実測が示したのは、量ではなく振れ幅だった

屋上農の食料への寄与を論じるとき、多くの議論は「もし適した屋根をすべて使えば」という仮定から出発します。仮定の話は水掛け論になりやすいので、ここでは実際に長く測られた屋根を一つ取ります。バルセロナ自治大学のICTA-UAB棟の屋上には、建物と一体化した125平方メートルの温室があり、2015年から2023年までの8年間、トマトの栽培周期ごとに収量と資源消費が記録されてきました。2026年にAgronomy for Sustainable Development誌に発表されたエヴァンジェリスタらの報告は、その8年ぶんをまとめたものです。研究施設の屋根で、専門の技術者が管理し、栽培条件を変えながら測り続けた——屋上農としては、ほぼ最良の条件に近い記録と言っていいでしょう。

その最良の条件で出てきた数字が、収量1平方メートルあたり0.9〜20.3キログラムという幅です。最も良い周期では1株1日あたり49グラムに達しましたが、周期によっては20分の1以下に落ちる。しかも、8年を通した趨勢は31.2%の低下でした。原因は病害でも気候でもなく、温室を覆うポリカーボネートの劣化です。透過率が落ちれば光が減り、光が減れば収量が減る。著者らは、メーカーが示す10年ではなく4〜6年での張り替えを勧め、それによって生産性が19.4〜31.8%改善し、温暖化影響が6.7〜7.7%減ると報告しています。屋上農は、建てた時点の性能で語れる設備ではありません。屋根の上の農業は、屋根そのものの老化と同じ速度で衰えていきます。

この振れ幅は、食料供給という文脈では致命的です。都市の食料計画は、平均ではなく最低保証で組まれるからです。0.9キログラムしか採れない年があり得る設備を、供給の一部として数えることはできません。そして、この特集が第6回で見たとおり、ブルックリン・グレンジもルーファ・ファームズも、収穫そのものからは利益を出していませんでした。片方は屋上を作る技術を売り、もう片方は流通を売っている。事業者自身が、屋上の産物を食料供給としてではなく別の商材として扱っているのです。屋上農を食料生産として評価するのをやめるべきだ、というのが、この8年ぶんの実測から引き出せる最も率直な結論です。

期待 ② 環境

「近いから環境に良い」は、屋上では成り立たない

屋上農を支持する二番目の理由は、たいてい輸送です。畑から食卓までの距離が短ければ、運ぶための燃料が減り、環境負荷が下がる——直感的で、しかし検証されにくい主張です。同じバルセロナの8年間の記録は、ライフサイクルアセスメントも並行して行っています。その結果、トマト1キログラムあたりの温暖化影響は、最も少ない周期で0.54キログラムCO2換算、最も多い周期で12.05キログラムCO2換算でした。同じ屋根の、同じ温室の、同じ作物です。22倍以上の開きが、どこから来たのか。人工照明です。照明を使った周期の電力消費は1キログラムあたり19.7kWh、通常の温室周期では0.49kWh。40倍です。

この数字が意味するのは、屋上農の環境性能を決めているのは立地ではなく運転だということです。都心の屋根の上にあることは、環境負荷の計算にほとんど寄与しません。寄与するのは、照明を焚くかどうか、暖房を入れるかどうか、被覆材をいつ張り替えるか、水と肥料を循環させるかどうかです。著者らは、循環方式が水と養分の損失を減らす一方で、養分濃度を保つための丁寧な監視が要ると注意しています。つまり、屋上農の環境性能は、設計ではなく日々の管理の質に宿っている。これは第2回で見た物理の話と、第6回で見た費用の話の、ちょうど接点にあたります。管理を続ける金が切れた瞬間、環境性能も落ちるのです。

留保も要ります。この数字は地中海性気候のバルセロナで、研究用の統合型屋上温室から得られたもので、著者ら自身が、より高緯度の事例では追加の投入が必要になり評価が変わりうると書いています。人工照明を使った周期のうち一つは18株という小規模で、代表性がなく外挿できないとも明記されています。したがって「屋上農の炭素強度は0.54から12.05まで」という言い方はできません。言えるのは、同一施設内でも運転条件によって一桁以上動きうるということ、そして輸送距離という単一の指標で環境性能を語ることはできないということです。第1回で立てた「単一の指標から結論を出さない」という方法は、ここでも生きています。

期待 ③ 緑地政策

屋上の緑は、地上の緑の代わりになっているか——東京都規則を読む

屋上緑化に向けられる批判のなかで、最も重いのは「アリバイ」という指摘です。敷地いっぱいに建てて地上の緑を潰し、その埋め合わせに屋根へ緑を載せる。制度上の緑化率は満たされるが、街路から見える緑と、地面に根を張る樹木は減っていく——という批判です。この批判が制度上どこまで成り立つのかを、東京都の規則で確かめます。東京における自然の保護と回復に関する条例施行規則の第6条は、緑化の基準を二本立てで定めています。地上部については別表第二により、(敷地面積−建築面積)に0.2から0.25を乗じた面積。加えて接道部について別表第三により、接道部の長さに10分の3から10分の8を乗じた長さ。建築物上については別表第四により、屋上の面積に0.2から0.35を乗じた面積です。

重要なのは、この二つが別建てだということです。条例第14条第1項も「地上部及び建築物上の緑化についての計画書」という書き方をしており、屋上に緑を載せたからといって地上部の基準が下がる構造にはなっていません。原則としては、アリバイは成り立たない。ただし、規則第6条には続きがあります。第3項は「第一項第一号の地上部での緑化の面積の基準を満たすことが困難な特段の理由がある場合には」、その困難な面積相当分を建築物上の同一面積の樹木の植栽で代えることができると定めます。第4項はその逆で、建築物上の基準が困難な場合に地上部で代えることを認めています。つまり振替の経路は制度上存在し、しかも上下双方向に開いています。

したがって、この批判に対する正直な答えは「制度は原則としてアリバイを許していないが、例外の扉は開いている」になります。そして扉の広さは条文からは分かりません。「困難な特段の理由」がどの程度で認められ、実際にどれだけの件数で振替が使われているのかは、本稿の執筆環境からは確認できませんでした。批判が当たっているかどうかは、条文ではなく運用の統計が答えるべき問いであり、その統計を私たちはまだ持っていません。第6回で見た構図——制度の意図と、金の流れる先は一致しない——が、ここでは制度の条文と運用の関係として繰り返されています。なお、地上部の基準に加えて接道部の基準が別に課されていることは、東京都の制度が「街路から見える緑」を独立に守ろうとしていることの表れであり、この点はアリバイ批判に対する制度側の防御にあたります。

期待されていなかったもの

手入れをしなかった屋根に、62種が来ていた

ここまで三つの期待を数字で削ってきました。最後に、誰も期待していなかった効用を一つ置きます。ローマのケプレロ理数系高校の屋上には、2016年に設置された約200平方メートルの緑化屋根があります。うち150平方メートルが基盤厚12センチメートルの薄層型、50平方メートルが厚さ15センチメートルの実験用のレイズドベッドです。設置時に植えられたのは地中海性の6種でした。ベリーニらが2025年にPlants誌に報告したところによれば、その後ほとんど手入れをされなかったこの屋根には、18科62種の植物が自然に入り込んでいました。そのうち35種、全体の56%が一年生植物です。

6種が62種になった。しかも、増えたぶんは誰も植えていません。著者らは、在来の地中海性の種がセダムのカーペットに代わる有効な選択肢になりうること、そして多様な微気候をつくることが自然な定着の過程を支え、より強靭で多様性の高い屋根につながりうることを指摘しています。この結果が示唆するのは、屋上の最も確かな産物は収穫ではないかもしれない、ということです。第6回で見たとおり、屋上緑化の便益のうち価格がついているのは雨水と冷房費だけで、生きものの居場所には値札がありません。しかしこの屋根が実際に生み出したのは、値札のないほうでした。しかも、生み出すために必要だったのは投資ではなく、放っておくことでした。

留保は著者ら自身が明示しています。植生の調査期間は1年であり、最初は旺盛に見えた植物が後に消えることもある、と。したがって62種という数字を、この屋根の恒久的な状態と読むことはできません。また、ローマの地中海性気候での結果を、梅雨と台風のある日本の屋上にそのまま持ち込むこともできません。それでも、この事例が投げかける問いは残ります——屋上に人手と金をかけて作物を作らせるより、基盤を敷いて微地形をつくり、あとは来るものに任せるほうが、都市にとって価値が高い場合があるのではないか。この問いは、屋上を「農地」と呼んできた本特集の前提そのものを、最後に揺さぶります。

誰の場所か

屋上農の最大の制約は、荷重でも金でもなく、鍵である

第2回では重さが、第6回では金が、屋上の制約として語られました。しかし市民の側から見たとき、実際に効いている制約はもっと単純です。屋上には、鍵がかかっています。建物の所有者か管理者の許可がなければ、階段の最後の一段は上れません。この点で、地上の市民農園とは制度の性格がまったく違います。市民農園には、誰が開設できるかを定めた法律の経路が四つあります——市民農園整備促進法、特定農地貸付法、都市農地貸借法、そして農園利用方式です。開設主体も、市町村、農業協同組合、農地を所有する者、農地を所有しない企業やNPOの四類型が想定されています。参加したい市民が、どこへ行けばよいかが制度として決まっているのです。

この差は、統計の存在そのものにも表れています。市民農園については、農林水産省が農園数・区画数・面積を平成4年度から令和6年度まで一貫して追いかけており、開設主体別の内訳まで公表されています。屋上農園については、これに相当する全国統計がありません。国土交通省の調査が数えているのは緑化の施工面積であって、そこで作物が育てられているかどうか、市民が入れるかどうかは区別されていません。数えられていないものは、政策の対象になりにくい。第6回で「価格のついていない便益は削るときに数えられない」と書きましたが、ここではもっと手前の問題があります——数えられていない場所は、そもそも議論の俎上に載りません。

この非対称は、屋上農の可能性を否定するものではありません。しかし、優先順位を変えます。市民が土に触れる機会を増やしたいのであれば、鍵のかかっていない場所を増やすほうが、鍵のかかった場所を交渉で開けるより速い。逆に、鍵のかかった屋上でしかできないことは何かを問えば、そこには第1回から述べてきた答えがあります——都心の高密度な場所で、地上には一坪の余地もない場所で、それでも雨と熱を処理し、生きものの通り道になれること。屋上の価値は、地上と競合する領域ではなく、地上が存在しない領域にあります。

実践

それでも始めるなら——順序をつけた四つの手

第一の手は、屋上ではなく地上から始めることです。土に触れたいという動機で屋上を探し始める人は多いのですが、令和6年度で全国に4,273か所ある市民農園は、平均およそ68平方メートルの区画を18万8千以上用意しています。開設主体の内訳を見れば、地方公共団体が1,977、農業者が1,433、企業・NPO等が449、農業協同組合が414。募集の窓口は市区町村の農政担当や農業協同組合にあり、屋上を探すより先に確かめるべき選択肢です。栽培の経験を先に積んでおくことは、屋上に上がったときの成否をそのまま左右します。第2回で見たとおり、屋上は風が強く、土が浅く、水が抜けやすい——初心者に優しい環境ではないからです。

第二の手は、屋上を選ぶなら建物の素性から確かめることです。順序は、植えたいものではなく、建物が何を許すかから始まります。竣工年、構造、そして建築基準法上の検査済証の有無。第6回で見た三鷹市の助成制度が、建物が新たな緑化に耐える強度をもち検査済証が交付されていることを要件にしていたのは、この確認を制度が代行してくれないからです。第三の手は、水の出口を先に探すこと。屋上で最初に壊れるのは植物ではなく、排水です。排水口の位置と、点検のために人が近づける経路があるかを、土を運び上げる前に確認してください。第2回で「屋上農園の図面は下から読む」と書いたのは、この順序のことでした。

第四の手は、撤退を設計に含めることです。屋上緑化の累計面積は約633ヘクタールと発表されていますが、これは各年の施工実績を足し上げた数字であり、その後どれだけが撤去されたのかは、この調査からは分かりません。積み上がった面積が、いま現に存在する面積と同じかどうかを、私たちは知らないのです。つまり屋上の緑は、統計の上では消えません。しかし現実には消えます。土を上げるときに、どういう条件になったら降ろすのか、誰がその費用を持つのかを書いておくこと。管理組合であれ企業であれ、これを最初に決めておいた屋上だけが、担当者が替わっても生き延びます。第6回で見た事業者が土地を買っていないことの裏返しが、ここにあります——借りている場所は、いつか返す場所です。

振り返り

屋上を農地と呼ぶのをやめたところから、屋上の使い道が見えてくる

本記事は、屋上農に向けられる三つの期待を順に数字で確かめ、そのあとで誰も期待していなかった第四の効用を置き、最後に実践の順序を示しました。道筋はこうです。まず二つの面積を並べました——2000年から2024年までに積み上がった屋上緑化が約633ヘクタール、2024年の新規施工が約14.5ヘクタール。対して令和6年度の全国の市民農園は4,273か所・188,713区画・1,284ヘクタールで、1区画あたり平均およそ68平方メートル。次に食料への寄与を、バルセロナ自治大学の125平方メートルの屋上温室で8年間測られた実測から検証し、続いて環境負荷を同じ施設のライフサイクル評価から検証し、さらに緑地政策上の「アリバイ」批判を東京都の規則の条文から検証しました。そのうえでローマの高校の屋根に移り、最後に地上から屋上へという順序で四つの実践を並べました。

とりわけ重要な論点を三つ、名指しで言い直します。第一に、屋上農の収量は最良の条件でも安定しないこと。バルセロナの8年間で収量は1平方メートルあたり0.9〜20.3キログラムの幅をもち、8年を通して31.2%低下しました。原因は被覆材の劣化であり、著者らは4〜6年での張り替えによって生産性が19.4〜31.8%改善すると報告しています。第二に、環境性能は立地ではなく運転が決めること。同じ施設内で温暖化影響は1キログラムあたり0.54〜12.05キログラムCO2換算、電力は人工照明の周期で19.7kWh、通常の温室周期で0.49kWhと40倍の開きがありました。第三に、東京都の制度では屋上と地上の緑化基準が別建てであること。施行規則第6条は地上部を(敷地面積−建築面積)×0.2〜0.25、建築物上を屋上面積×0.2〜0.35と定め、相互の振替は第3項・第4項により「困難な特段の理由」がある場合に同一面積までに限られています。

わかっていないことと留保を明示します。最大の留保は、この特集が第4回「世界の事例」と第5回「日本の現在地」を公開できなかったことです。したがって日本の屋上の現在地について本記事が示せたのは、国土交通省の施工実績という一種類の数字だけであり、撤去や実際の稼働状況は扱えていません。累計約633ヘクタールが現存面積と同じかどうかも、この調査からは分かりません。バルセロナの数字は地中海性気候の研究施設のものであり、著者らは高緯度では追加の投入が必要になりうると明記し、人工照明を使った1周期は18株と小規模で外挿できないとも書いています。ローマの62種は1年間の植生調査の結果であり、著者ら自身が、初めは旺盛に見えた植物が後に消えることがあると注意しています。東京都の「困難な特段の理由」がどう運用されているかは確認できませんでした。想定される反論も正当です——収量が不安定でも、教育や福祉や地域づくりの場としての価値は収量とは別の尺度で測るべきだ、という反論には、本記事は数字で応じられていません。

特集『屋上という農地』の最終回として、7日間で見えたことを一つにまとめます。初日に私たちは、屋上を面積として数え直すところから始めました。第2回で重さと水の物理に降り、第3回で防火から始まった系譜を辿り、第6回で義務・補助・料金という三つの道具を金額まで下ろしました。そして本記事で、その全部を「何の役に立つのか」という一つの問いに通しました。通してみて残ったのは、屋上を農地と呼ぶことの無理です。屋上は、食料生産の場としては小さく不安定で、環境負荷の面では運転次第で悪くもなり、地上の緑の代わりにはならない。しかし屋上は、地上が存在しない場所に、雨と熱を処理する面をつくり、生きものが立ち寄る島をつくることができます。そして時には、手入れをやめた屋根に62種が来ます。読者が次に取る行動として本記事が勧めるのは、まず地上の市民農園で一年育ててみること、そのうえで自分の建物の検査済証と排水口を確かめることです。屋上を農地と呼ぶのをやめたところから、屋上の本当の使い道が見えてきます。

この記事の要点

  • 屋上農の収量は最良の条件でも安定しない。バルセロナ自治大学の屋上温室で8年間測られたトマトは1平方メートルあたり0.9〜20.3キログラムの幅をもち、被覆材の劣化により8年で31.2%低下した。
  • 環境性能を決めるのは立地ではなく運転である。同じ施設でトマト1キログラムあたりの温暖化影響は0.54〜12.05キログラムCO2換算、電力は人工照明で19.7kWh、通常の温室で0.49kWhと40倍開いた。
  • 東京都では屋上の緑は原則として地上の緑の代わりにならない。施行規則第6条は地上部と建築物上を別建てで課し、振替は「困難な特段の理由」がある場合の同一面積に限られる。
  • 手入れをやめた屋根に、植えていない62種が来た。ローマの高校で2016年に設置された200平方メートルの屋根は、植栽6種に対し18科62種の自然侵入を記録し、うち56%が一年生だった。
  • 土に触れる場所を増やすなら地上が速い。令和6年度の市民農園は4,273か所・188,713区画・1,284ヘクタールで、24年ぶんの屋上緑化約633ヘクタールのおよそ倍の面積を、全面食用の土として持っている。
  • 屋上農の制約は荷重でも金でもなく鍵である。市民農園には開設の法的経路が四つあり全国統計も整うが、屋上農園には相当する統計がなく、数えられていない場所は政策の対象になりにくい。
  • 始めるなら順序がある。第一に地上の市民農園で経験を積み、第二に建物の検査済証と構造を確かめ、第三に排水口と点検経路を先に探し、第四に「どうなったら降ろすか」を最初に書いておく。

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