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都市と農村をつなぐ

フードマイレージから関係人口まで、都市-農村連続体の科学と世界の実装

2026-06-27 · 19

「都市」と「農村」は、地図の上では別の色で塗り分けられます。けれども実際には、食べ物・人・お金・水・情報が日々その境界を行き来し、両者は一本の連続したグラデーションとしてつながっています。本コラムでは、この「都市-農村連続体(urban-rural continuum)」という考え方を出発点に、両者を結ぶ4つの糸——食料の流れ、人の移動、近郊(peri-urban)という現場、そしてそれらをつなぐ仕組み——を、科学的な知見と世界各地・日本/関西の実装から読み解きます。アーバンファームは、この長い円環の都市側の結び目にあたります。

はじめに

「都市 対 農村」という地図を捨てる

私たちはつい、都市と農村を対立する二つの世界として思い描きます。コンクリートと土、消費する側とつくる側、人口が集まる場所と減っていく場所——。しかし、毎朝の食卓に並ぶ野菜がどこから来たのかを一品ずつたどってみると、その単純な二分法はすぐに崩れます。トマトは近郊の農家から、米は地方の産地から、調味料はさらに遠くの工場から。あなたの皿は、すでに都市と農村を縫い合わせた一枚の地図なのです。

研究の世界でも、この「つながり」を正面から扱う言葉が育ってきました。都市農村連携(urban-rural linkage)、都市-農村連続体(urban-rural continuum)、近郊(peri-urban)——いずれも、都市と農村を切り離さずに、その間を流れるものとして捉え直す視点です。国連ハビタットやFAO、世界銀行といった国際機関が相次いでこのテーマの指針を出しているのは、世界の食料・環境・貧困の問題が、まさにこの境界線の上で起きているからです。

考え方の入り口

境界線ではなく、グラデーションとして

2021年、Cattaneoらは『PNAS』誌で、世界中の土地を「都市集積の規模」と「都市までの移動時間」の組み合わせで30種類に分類する枠組みを示しました。URCA(Urban-Rural Catchment Areas、都市-農村捕捉圏域)と呼ばれるこの考え方は、都市と農村のあいだに無数の中間段階があることを地図化してみせます。大都市の中心から、その通勤圏、近郊の農地、小さな町、そして遠い農村へ——色は途切れることなく移り変わっていきます。

この見方は、政策にも静かな衝撃を与えました。世界銀行の分析によれば、世界人口のおよそ4分の1は「中小都市の周縁部(peri-urban)」に暮らしています。大都市ばかりを開発の中心に据える従来の発想では、この巨大な中間層が見落とされてしまう。しかも、大都市の近くに住むほど貧困は減る傾向がある一方で、中規模都市の縁辺ではむしろ貧困リスクが高まるという逆説も観察されました。「どこに住むか」は、連続体のどの位置にいるかで大きく意味が変わるのです。

都市農の視点からこの連続体を眺めると、アーバンファームの役割が立体的に見えてきます。屋上菜園や市民農園は、消費する一方だった都市住民を、ほんの少しだけ「つくる側」へと引き寄せる装置です。それは食料自給率を劇的に変えるものではないかもしれませんが、都市の人が農のリズムを体に取り戻し、農村側の生産者や土地と心理的につながり直す——その最初の結び目になりうるのです。

つなぐ糸 ①

食料が結ぶ糸——フードマイレージと地産地消

都市と農村を結ぶ最も太い糸は、言うまでもなく食料です。そして近年、その糸の「長さ」が問われるようになりました。フードマイレージ(食料の輸送距離 × 重量)という指標は、私たちの食卓がどれだけ遠くの土地に支えられているかを可視化します。2022年に『Nature Food』誌が発表した世界規模の試算では、食料輸送に伴う排出は食料システム全体の温室効果ガスの約2割(約3.0ギガトンCO₂換算)に達すると見積もられました。食料の流れを短くすることは、気候対策の一手でもあるのです。

ただし「近ければ必ず善い」という単純な話ではありません。Coleyらの古典的な研究(2009年)は、消費者が地元産の野菜を買うために自家用車で片道6.7km以上を走ると、その移動による排出が大規模流通のそれを上回りうることを示しました。地産地消の価値は、炭素だけで測れるものではない——鮮度、信頼、地域経済、生産者の顔が見える安心感といった、数字にしにくい便益の束として捉える必要があります。

関西は、この「食料の糸」を定量的に測った貴重なフィールドです。原祐二らは『Sustainability Science』誌で、大阪都市圏の野菜について、半径80km圏内での生産/消費比率が約7割に達すること、耕作放棄地を復元すれば約75%まで高まりうることを示しました(2013年)。さらに同チームは大阪とニューヨークを比較し(2018年)、都市の空き地や未利用地を使えば、地元産野菜でどれだけの人口を支えられるかを推計しています。大都市の足元には、思いのほか厚い農の層が残っているのです。

つなぐ糸 ②

提携(テイケイ)——神戸で生まれた世界のCSA

食料の糸を「短く・顔の見える」ものに編み直す試みの原点は、実は日本にあります。1971年、神戸の周辺で、数人の農家が化学肥料を使わずに育てたカボチャを地元の主婦グループに直接届けたことから、「提携(テイケイ)」と呼ばれる仕組みが始まりました。生産者と消費者が価格と収穫を分かち合い、顔の見える関係で結びつくこのモデルは、数年で1300人規模にまで広がります。

このテイケイこそ、欧米で広く知られるCSA(Community Supported Agriculture、地域支援型農業)の源流とされています。2024年に『Frontiers in Sustainable Food Systems』誌に掲載された「テイケイ50年」の研究は、伊賀・名張、大阪、神戸といった関西の事例を含めて、その10原則がどう変容してきたかを跡づけました。都市と農村を結ぶ糸は、補助金でも巨大インフラでもなく、まず人と人の約束から始まったのです。

もっとも、約束は世代を超えて受け継がねば途切れます。関西の2つのテイケイグループを追った研究(JAFSCD誌)は、ボランティアの高齢化という課題に直面しながらも、若い世代へリーダーシップを引き継ぐことで「多様な経済」として再活性化していくプロセスを描きました。都市農村の接続は、一度つくれば終わりではなく、絶えず編み直しを必要とする生き物なのです。

つなぐ糸 ③

人が動く——移住・関係人口・二拠点

食料だけでなく、人そのものも都市と農村を行き来します。日本ではかつて、農村から都市への一方向の人口流出が前提でした。地理学者の森川洋は『人文地理』(2020年)で、東京一極集中を是正できないまま進む地方創生政策の限界を鋭く論じ、東京の機能分散なしに農村の衰退は止まらないと指摘しています。

しかし近年、流れは一方向ではなくなりつつあります。「関係人口」——移住するわけでも単なる観光客でもなく、特定の地域に継続的に関わる人々——という概念が広がり、二拠点生活やワーケーション、地域おこし協力隊といった新しい接続の形が現れました。兵庫県も協力隊を積極的に募集し、都市出身者が農村に根を下ろす回路を整えています。

こうした移住は、本当に人を幸せにするのでしょうか。2025年に『Sustainability Science』誌に載った研究は、全国調査と地理空間データを組み合わせ、都市から農村へ移った人々の生活の質に、農地や緑地といった「自然資本」が統計的に有意に寄与することを示しました。神戸と淡路島の4市が2019年に結んだ連携協定のように、都市で働きながら島で暮らす——そんなデュアルライフを後押しする動きは、この知見を地で行くものです。

つなぐ糸 ④

縁辺という現場——peri-urbanの最前線

都市と農村が最も激しくせめぎ合うのは、その境界そのもの——近郊(peri-urban)です。ここでは農地が宅地に変わり、農家は都市化の圧力に適応を迫られます。Zasadaらがコペンハーゲン周辺で行った研究(2011年)は、都市化のプロセスの違いが、レジャー農園や環境保全型農業といった「多機能化」戦略の分布をどう左右するかを回帰分析で示しました。縁辺の農業は、ただ消えていくのではなく、都市の需要に応じて姿を変えていくのです。

この縁辺のせめぎ合いは、グローバルサウスではさらに切実です。Follmannらがアフリカ・アジア・ラテンアメリカの83都市・92論文をメタ分析した研究(2021年)は、急速に拡大する都市の縁で、農地転用と周縁化が進む一方、食料需要の増加によって近郊農業がむしろ拡張・集約化する両義的な力を描き出しました。縁辺は「失われゆく場所」であると同時に「立ち上がる場所」でもあるのです。

もっとも、縁辺の農が抱える課題は技術や政策の「届かなさ」にも表れます。南アフリカ・ツワネ大都市圏の零細農家を調べた研究(Chitakira & Ngcobo, 2021年)は、農家が気候変動の影響を肌で感じていながら、それに対処する「気候スマート農業(CSA)」という枠組み自体をほとんど知らない、という認知と実践のギャップを明らかにしました。都市と農村をつなぐとは、モノや人だけでなく、知識と制度を縁辺まで届けることでもあるのです。

仕組み

つなぐ仕組みをどう設計するか

個々の糸を、社会の制度として束ねる試みも進んでいます。国連ハビタットは2019年、「都市農村連携:行動のための指針(URL-GP)」を発表し、権利・参加・均衡あるパートナーシップなど10の原則を掲げました。都市と農村を別々の行政の箱に押し込むのではなく、多セクター・多レベルで統合的に扱うべきだという考え方です。

食料に焦点を当てた枠組みとしては、FAOとRUAFが推進する「都市圏食料システム(City Region Food Systems, CRFS)」があります。都市とその後背地である農村を一つの食料圏として捉え、生産・加工・流通・消費・廃棄の流れと、生計・食料安全保障・公平性・持続可能性のつながりを設計しようとする取り組みです。COVID-19のような危機において、短く太い都市農村の食料の糸が地域のレジリエンスを支えることが、各国で確認されました。

欧州では共通農業政策(CAP)やLEADERといった枠組みが、農村の雇用と地域開発を都市との関係の中で支えてきました。これらに共通するのは、「農村は都市に食料を供給し、都市は農村に市場と需要を供給する」という相互依存を、政策の前提として明文化している点です。日本の地方創生もまた、この相互依存をどう制度設計に落とし込むかという、同じ問いの前に立っています。

現在地

日本・関西の現在地——都市農の結び目から

ここまでの糸を、関西という一つの土地で結び直してみましょう。大阪駅の上、ノースゲートビル14階には「天空の農園」があり、ビルの屋上でナスやブドウが実ります。神戸市兵庫区の平野展望公園では、利用率の低かった都市公園を市民の農園「平野コープ農園」へと転換する実験が、行政と市民の協働で進められています(新保, 2022年)。縮退する都市の中で、農が地域コミュニティを編み直す結び目になりうることを、この事例は静かに示しています。

都市の結び目から目を上げれば、その先には農村側の結び目が見えます。丹波篠山の黒豆や山の芋といったブランド農産物は、大阪・神戸の都市住民の食卓と農業体験を引き寄せ、淡路島は「御食国(みけつくに)」の食と移住・観光で都市と結びつきます。これらは別々の取り組みのようでいて、実は一本の連続体の上に並ぶ点なのです。

アーバンファームに関わる私たちにできることは、まずこの連続体の存在に気づくことです。屋上の一畝、ベランダのプランター、週末の市民農園——それらは単独で完結する趣味ではなく、はるか農村まで伸びる長い糸の、都市側のいちばん手前の結び目です。その糸を意識して手繰り寄せたとき、一枚の皿は、都市と農村をつなぎ直す小さな政治の場になります。

この記事の要点

  • 都市と農村は対立する二項ではなく、食・人・お金・情報が行き交う一本の「連続体(continuum)」として捉え直すと、アーバンファームの位置づけが立体的に見えてくる。
  • 食料の流れを短くすることは気候対策の一手だが、『近ければ必ず善い』わけではない。地産地消の価値は炭素・鮮度・信頼・地域経済を束ねて評価する必要がある。
  • 世界に広がるCSAの源流は、1971年の神戸で生まれた『提携(テイケイ)』。都市農村の接続は補助金より先に、人と人の約束から始まった——そして世代を超えて編み直し続ける必要がある。
  • 人の流れはもはや一方向ではない。関係人口・二拠点生活・地域おこし協力隊が新しい接続を生み、研究は農村移住者の生活の質に『自然資本』が寄与することを示している。
  • 最前線は近郊(peri-urban)。ここは農地が失われる場所であると同時に、食料需要で農が立ち上がる場所でもある。つなぐとはモノや人だけでなく、知識と制度を縁辺まで届けること。
  • 国連ハビタットのURL-GP、FAOのCRFS、EUのCAPなど、相互依存を制度として明文化する枠組みが世界で整いつつある。日本の地方創生も同じ問いの前に立っている。

参考・出典

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